化粧をしていると、鏡越しに何とも言いがたい表情のカエデと目が合う。
「カエデさん。……必ず、渡してください」
「……ああ。ちゃんと渡すよ。だからそれについては心配しなくていい」
「ありがとうございます」と感謝を告げて、真っ赤な口紅を引く。
「……ほ、他に何かあったら言ってくれ。俺に、皇にできることがあれば――」
「それでは一つ、お願いをします」
堪らず声をかけるカエデへ、小さく笑って。少し伸びた髪を上げ、項を出したアップスタイルに最後、葵は真っ赤なルビーのネックレスを身につけ立ち上がる。
「……よろしければ、パーティー会場までのエスコートをお願いできますか?」
「……ああ。それぐらいお安いご用だ」
カエデの腕に手を添え、葵はカツカツとヒールを鳴らしながら、パーティー会場へと歩みを進めた。
「ありがとうカエデさん。こちらまでで結構ですわ」
「…………」
そして、パーティー会場に入ってすぐ、葵はカエデから手を放す。
「シラン様と皇くんはどちらにいらっしゃるかしら」
「……恐らく挨拶回りかと」
「そう。では、お父様がどちらにいるかわかるかしら」
「……道明寺様は先程お車で到着されたとのことです。もうすぐいらっしゃるかと」
そう話していると、表側の入り口に見知った姿が見えた。中肉中背の、至って何の取り柄もなさそうで。そして、一際やさしい笑顔が印象的の、その人が。
「ちょうどいらしたようだわ」
「……そのようで御座いますね」
表情は一切変わらないが、カエデの纏う空気だけがごろりと変わったのがわかる。
「(シントもここまでの域に達しないとね。……やっぱりあの子に執事なんて、最初から無理な話だったんだ)」
仕事の邪魔をするなんて以ての外。ましてや泣いて引き止めるなんて言語道断。
葵も彼同様雰囲気を変え、そっと距離を取る。
「ありがとうカエデさん。……後は頼みます」
「……承知致しました。アオイ様」
カエデは胸に手を当て、深く葵に頭を下げる。
「今宵のパーティー。あなた様にとって【大きな一歩】となりますこと。心より願っております」
「……ええ。お気持ち感謝致しますわ」
葵も軽く会釈をし、父の元へと足を進めた。
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