すべてはあの花のために⑤


 化粧をしていると、鏡越しに何とも言いがたい表情のカエデと目が合う。


「カエデさん。……必ず、渡してください」

「……ああ。ちゃんと渡すよ。だからそれについては心配しなくていい」


「ありがとうございます」と感謝を告げて、真っ赤な口紅を引く。


「……ほ、他に何かあったら言ってくれ。俺に、皇にできることがあれば――」

「それでは一つ、お願いをします」


 堪らず声をかけるカエデへ、小さく笑って。少し伸びた髪を上げ、項を出したアップスタイルに最後、葵は真っ赤なルビーのネックレスを身につけ立ち上がる。


「……よろしければ、パーティー会場までのエスコートをお願いできますか?」

「……ああ。それぐらいお安いご用だ」


 カエデの腕に手を添え、葵はカツカツとヒールを鳴らしながら、パーティー会場へと歩みを進めた。


「ありがとうカエデさん。こちらまでで結構ですわ」

「…………」


 そして、パーティー会場に入ってすぐ、葵はカエデから手を放す。


シラン様(、、、、)皇くん(、、、)はどちらにいらっしゃるかしら」

「……恐らく挨拶回りかと」

「そう。では、お父様がどちらにいるかわかるかしら」

「……道明寺様は先程お車で到着されたとのことです。もうすぐいらっしゃるかと」


 そう話していると、表側の入り口に見知った姿が見えた。中肉中背の、至って何の取り柄もなさそうで。そして、一際やさしい笑顔が印象的の、その人が。


「ちょうどいらしたようだわ」

「……そのようで御座いますね」


 表情は一切変わらないが、カエデの纏う空気だけがごろりと変わったのがわかる。


「(シントもここまでの域に達しないとね。……やっぱりあの子に執事なんて、最初から無理な話だったんだ)」


 仕事の邪魔をするなんて以ての外。ましてや泣いて引き止めるなんて言語道断。
 葵も彼同様雰囲気を変え、そっと距離を取る。


「ありがとうカエデさん。……後は頼みます」

「……承知致しました。アオイ様(、、、、)


 カエデは胸に手を当て、深く葵に頭を下げる。


「今宵のパーティー。あなた様にとって【大きな一歩】となりますこと。心より願っております」

「……ええ。お気持ち感謝致しますわ」


 葵も軽く会釈をし、父の元へと足を進めた。


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