すべてはあの花のために⑤


 降りようとする葵の腕を、シントが思い切り掴んでくる。


「放しなさい」

「いやだ、放さない」


 爪を立てながら。


「はあ。わたしの教育が不十分だったみたいね」

「何言ってるの。俺はお前のためを思っ」

「何を言ってるのか知らないけど、わたしはあそこをSクラスで卒業して、早く花を開かせないといけないのよ。それこそが、あの人たちが望んでいること。わたしはそれに従うまで」


 シントの手を掴んで、そして捻り上げる。


「っ、あおいっ!」

「主人に対しての暴力、言葉遣い、終いには仕事の邪魔。悩む余地もないわ。もうあなたは要りません。使えない道具を持っていたところで無意味だもの」


 車から降りた葵は、後部座席からドレス一式を抱える。


「どうもありがとう。今までわたしの準備(、、)を手伝ってくれて」

「――っ! あおいッ!」

「このことはきちんとお父様にご報告させていただきます。それまで次の働き場所を探すといいわ。……もう、わたしの視界にも入らないで頂戴。気分が悪いから」


 苛立ちを閉める車の戸にぶつけ、葵は立ち去っていった。



「……どういう。ことだ。あおい……っ」


 もう『ピアス』なんて関係ない。
 車の中でずっと涙を流しながら、シントは愛おしい人の名を呼び続けた。


 ――――――…………
 ――――……


 裏門から皇へと入ると、カエデがわかりやすいところで立って待っていてくれた。


「本日はお招きいただきありがとうございます」

「……いえ。ようこそおいでくださいました、道明寺 葵様」


 葵はカエデに衣装部屋へと通してもらう。


「アオイちゃん」


 誰もいないのを確認したカエデが、早々に執事の顔を崩した。


「何でしょう」

「さっきシランから聞いた」

「……そうですか」


 カーテンの向こうでドレスに着替えたあと、シャッと開けて中から出てくる。葵が身に着けているのは生徒会主催のクリスマスパーティー同様、真っ赤なドレスと真っ赤な靴。