降りようとする葵の腕を、シントが思い切り掴んでくる。
「放しなさい」
「いやだ、放さない」
爪を立てながら。
「はあ。わたしの教育が不十分だったみたいね」
「何言ってるの。俺はお前のためを思っ」
「何を言ってるのか知らないけど、わたしはあそこをSクラスで卒業して、早く花を開かせないといけないのよ。それこそが、あの人たちが望んでいること。わたしはそれに従うまで」
シントの手を掴んで、そして捻り上げる。
「っ、あおいっ!」
「主人に対しての暴力、言葉遣い、終いには仕事の邪魔。悩む余地もないわ。もうあなたは要りません。使えない道具を持っていたところで無意味だもの」
車から降りた葵は、後部座席からドレス一式を抱える。
「どうもありがとう。今までわたしの準備を手伝ってくれて」
「――っ! あおいッ!」
「このことはきちんとお父様にご報告させていただきます。それまで次の働き場所を探すといいわ。……もう、わたしの視界にも入らないで頂戴。気分が悪いから」
苛立ちを閉める車の戸にぶつけ、葵は立ち去っていった。
「……どういう。ことだ。あおい……っ」
もう『ピアス』なんて関係ない。
車の中でずっと涙を流しながら、シントは愛おしい人の名を呼び続けた。
――――――…………
――――……
裏門から皇へと入ると、カエデがわかりやすいところで立って待っていてくれた。
「本日はお招きいただきありがとうございます」
「……いえ。ようこそおいでくださいました、道明寺 葵様」
葵はカエデに衣装部屋へと通してもらう。
「アオイちゃん」
誰もいないのを確認したカエデが、早々に執事の顔を崩した。
「何でしょう」
「さっきシランから聞いた」
「……そうですか」
カーテンの向こうでドレスに着替えたあと、シャッと開けて中から出てくる。葵が身に着けているのは生徒会主催のクリスマスパーティー同様、真っ赤なドレスと真っ赤な靴。



