すべてはあの花のために⑤


 そして、二人の乗った車が見えなくなった頃。一つ深呼吸をしてアイが口を開く。


「そんなに心配でしたか?」


 少し、声を張って。


「てっきり何かしてくるんじゃないかと思って、ヒヤヒヤしましたよ」

「……そんなことしても、アオイちゃん喜ばないからねー」


 ひとり。カナデが出てアイの前へ出る。


「そっか。よっぽど皆さんあおいさんのこと、お好きなんですね」

「だったらなんだよ」


 次はチカゼが。鋭い視線を向けた。


「いえいえ。あおいさんはおモテになって大変だなーと思っただけです」

「そうですねえ。あおいチャンはとてもいい子ですからあ~」

「あーちゃんはよく気がついて、まわりをよく見てて、それでもって格好いいんですよー」


 アカネとオウリもそれに続く。にっこり笑顔で。瞳には鋭さを携えたまま。


「俺もそう思います! だから、諦めずに頑張ろうと思いますよ!」

「ポジティブさは感心するけど、時には引くことも大切よ」


 ツバサの牽制に、アイは一瞬驚いたように目を丸くするも、ふっと表情を和らげた。


「そうですね。押して駄目なら引いてみろ、でしょうか」

「……ねえ。あなたは誰?」


 キサは、少しだけ不安そうに尋ねた。


「名前ですか? ……そうですね。では、アイと呼んでいただければ」

「……アイ?」


 ヒナタは名前を復唱した。眉を顰めながら。
 その後に誰も続いてこなくて、アイは思わず首を傾げる。


「あれ? もう一人の方はいつの間にいなくなったんですか?」


 アキラの存在まで気付いていたのかと、自分たちのことを把握しているアイに、みんなは怪訝な表情を浮かべた。


「え。な、なんでそんな目で見るんですか。知ってるのは、あおいさんが言ってたからですよ?」


『わたしの大切なお友達が一緒に来てるみたいで。もし邪魔をしてしまったらごめんなさい』


「そう、行きの電車の中で仰っていたので」


 みんなは絶句した。初めから葵にはお見通しだったのだ。


「小瓶に入れた石の数は八つ。……もしかしたら、そのお友達に見立てたのかなと」


 何も知らない彼は、どうやら頭が切れるようだ。


「俺、頑張りますね!」


 それが名前のせいなのか。まさかそんなわけがと考えていると、戸惑いを隠せないみんなにアイはにっこり笑顔を浮かべる。


「俺。……負けないですから」


 小さく宣戦布告したアイは、みんなに背を向け、改札の方へと大きく一歩を踏み出す。



「……俺が必ず、盗んでみせますから」


 自分の小瓶を見つめながら、アイは誓う。そこに入っていた、クリスマスカラーの赤と緑のストーン、そして黒色の鍵に――――。