すべてはあの花のために⑤


「……俺がお礼をこれにした理由も、ちゃんとわかっていたんですね」

「いいえ? 全然知りませんでした」

「だ、だったらなんで返事を……」

「えっと。何分、こういう経験をしたことがないもので……」


 ポリポリと、葵は頬を掻いた。


「わたしの大切な人たちが、お礼の意味を教えてくれたんです」


 みんなは思いました。やっぱり気付いてなかったんかいと。


「だったらちゃんと、あなたにお返事をしなければと、そう思ったんです」

「……そうだったんですね。察してくださって、そしてご丁寧に伝えてくださって、ありがとうございます」


 どこか彼はスッキリした表情をしていた。


「ということは、友達に昇格したってことですよね!」

「え? ええ、間違ってはいないですけど……」

「だったらまた頑張ります! なのであおいさん。今度よかったら、またお話しませんか?」

「ははっ。……そうですね。お手柔らかにお願いします?」


 どうやら、全然諦めることはしないみたい。ポジティブすぎて困った困った。


 19時前になり、二人は出口の方へと向かって歩き出す。それにみんなも付いて行った。


「今から何かあるんですか?」

「はい。クリスマスパーティーに招待されているんです。それはそうと、まだ閉館まで時間があったのによかったんですか?」

「流石に男一人で歩き回るのはちょっと……」

「そうですか? せっかくだから楽しめばよかったのに」

「……なら、また一緒に来ましょう? 今度は友達として。お礼はもう十分なので」

「ははっ。そうですか? でも、きちんとお返しできてよかった」


 二人はまだ手を繋いだまま。駅にはもう、黒のリムジンが止まっていた。


「ありがとうございました。ここまでで大丈夫ですよ」

「長いお時間あおいさんをお借りしてしまったので、よければ執事さんにご挨拶させてください」


 律儀な人だなと。そこまで言ってくれる彼の紹介も兼ねて、葵はシントに会わせることに。


「シント。お迎えありがとうございます」

「お嬢様、お帰りなさいませ――」


 シントが目を見張る。けれど一瞬だったから、きっと持っていた荷物の量に驚いたのだろう。


「……たくさん買われたのですね。お持ち致します」


 流れるように、葵の腕から荷物を全て持って行く。やはり正解だったようだ。


「……あおいさん。よければ」

「あ、ごめんなさい。シント、こちらアオイくんです。夢の国に誘ってくださった方で」


 葵の紹介に合わせ、彼は笑顔でシントに会釈する。


「初めましてしんとさん。あおいさん、今日忙しいみたいだったのに、連れ出してしまって申し訳ありません」

「……いえ、藍様。お嬢様も大変楽しまれたご様子ですので、こちらがお礼を申し上げるべきで御座います。本日は、お嬢様と仲良くしていただきましてありがとうございます」


 アイよりも深く、シントが頭を下げる。


「わわわ! そんな、頭を上げてください! あ、あおいさんも、何とか言ってくださいよお〜」


 慌てるアイを見ているのも楽しかったけれど、シントが膝まで突きそうな勢いだったので、流石にそれは止めておいた。


「それでは、今日は失礼致します」

「はい! またお誘いします!」


 軽く会釈し、葵は開かれた助手席へと乗り込む。


「それでは失礼致します藍様」

「はい! しんとさんも、また?」


 シントはもう一度アイに深く一礼して、車を走らせた。