「あっちゃんお疲れ~い!」
「……あ、キサちゃん! お疲れ様ですっ」
男たちは、扱いの差に嘆きました▼
「あっちゃん、みんなあっちゃんのこと知りたくてしょうがないんだってー」
「はい。ちゃんとそれはひしひしと伝わってきてます。いやと言うほど」
「じゃあ、言えるとこがあったら言ってね?」
「え?」
にっこりと笑ったキサは指を一本ずつ立てた。
「一つ目。昨日、あっちゃんは停電しちゃってた時、どこにいたのかな?」
「……言えません」
葵の少し申し訳なさそうな顔に、みんなは会話に集中した。
「そっか。うん! 大丈夫だよ! 言えないことならしょうがないっ」
「はい。……ありがとう、キサちゃん」
キサは嬉しそうに頬を緩める。
「それじゃあ二つ目。月雪くんとは、どこで会ったの?」
「…………」
「どんなこと、話したの?」
「…………」
「これも言えないこと?」
「……言いたくないこと。かな」
へへへと、申し訳なさそうに葵は笑う。
「うん! わかった!」
そう言ってキサはみんなに目配せをした。
「(翼……のことは、いっか。何かあいつも苦しそうだったし、それは聞かない方がいいかも)」
キサは一度目を瞑ったあと、口角を上げて笑った。
「それじゃあ最後ね? 明日はどこにいくの?」
「え? 明日は、ネズミとかアヒルとかイヌとかがいる夢の国に行くんだって仰っていました」
「へえすごいね! クリスマスイブに行くとかガチデートだね! あたしなんか『人混みはいやだ』って菊ちゃん家で済まされたからね!」
「え。それ多分『食べる』気満々ってことじゃ……」
「ん? んん? ……『仰っていました』?」
キサは首を捻らせた。
「向こうが勝手に決めたってこと?」
「え? はい。その方がよろしいかと思いまして」
「どうして? デートってことは、二人で行きたいとこ決めたんじゃないの?」
「デート……とは、ちょっと違うんです」
葵はそう言うけれど、『そんな場所で、しかも明日なんて、『デートです!』って言ってるようなものじゃん!』と、男性陣はみんな思っています。
「明日は……その。お礼なんです」
「お礼?」
「はい。実は以前その方に助けていただいたことがありまして。そのお礼がしたいと言ったら、向こうが提案してくださったんです」
「え? あのさ、そんな時期と場所をわざわざ指定してくるってことは、ほぼ確実に『下心めっちゃあります』って言ってようなものだよ?」
「彼にお礼として受け取っていただかないと意味がないので、そうすることにしたんです」
葵の将来が本気で心配になった生徒会メンバーであった▼
「そ、そっか。向こうにそう言われたらあっちゃんも断れないよね。嫌でもそれがお礼なら、あっちゃんもどうすることもできないもんね」
「…………」
「え? あっちゃん?」
「…………」
「も、もしかして、その人とのデートすること自体は、嫌じゃなかったり……?」
「…………」
無言を返す葵に、キサは察しました。「嫌じゃなかったりするんだね」と。
「(あちゃ~。まあそうなるよね~……)」
振り返ると『誰とだよ』『いつの間に自分たちより仲良くなった奴がいるんだよ』と、みんな揃ってぷんぷん丸。
「で、でも、別にその方が好きとかじゃないですよ? わたしがみんなより仲が良くて、大事で、大切で、大好きな人なんて、いるわけないじゃないですか」
見事、仮面をずらしてふんわり笑う葵の、手の平で転がされる男どもの図が完成。
キサは思いました。男って単純な生き物だなあと。



