すべてはあの花のために⑤


 それからは、『変なこと』には触れないよう、ツバサも『変なこと』を言わないよう、二人の会話に参加した。すると、横からつんつんと葵が腕を突いてきて、スマホの画面を見せてくる。


┌                  ┐
 ありがとう、話を合わせてくれて。

 今、シントはわけあって
 前みたいに話せないの。

 ツバサくんもシントの前では気をつけて。

 わたしたちがこんな風に話してたら、
 これからも気を付けて合わせて欲しい。

 わたしと、仲が良くない振りをして。
 お願い。
└                  ┘


 ツバサは思わず目を見開く。


「――――ッ」


 声が出そうになったけれど、わざわざ文字にして伝えてくるということ、何か話しちゃいけないわけがあるんだと思い、自分のスマホのメモ帳を開く。


┌                  ┐
 どういうことだよ。
 わけわかんねえ。

 話せないって何?
 お前が迎えを呼んでることと
 何か関係があるのかよ。

 お前が仮面着けてることと、
 関係があるのかよ!

 俺らと友達だって
 隠すのはなんでなんだよ!
└                  ┘


 悔しさに思わず下唇を噛む。
 でも、葵もシントも、結局最後まで何も()()()()()()


 それからすぐ家に着き、空気に耐えられず「ありがとうございました」と急いで車を降りる。葵も、助手席に乗り直すのか一旦降りていた。
 すると車の中にいるシントへ目配せをして、葵は少しだけ話をしてくれる。


「ありがとうツバサくん。合わせてくれて」

「……何。今は大丈夫なの」


 小声に小声で返す。でも、彼女は苦笑を浮かべるだけ。


「ほんとは、こんな状況だってことも話すつもりはなかったんだけど」

「なんで? やっぱり家か? シントさんも家に何か言われてんの」

「……ツバサくん。ここまでだ」


 けれど、すぐに葵の空気ががらりと変わる。真っ直ぐこちらを見上げる視線は、はっきりと拒絶を示していた。


「これは『言えない』ことであり『言いたくない』ことだ」

「あ、おい……」

「ありがとう、ツバサくん。『何も聞かないでいてくれて』」

「――っ! 葵ッ、俺は――んっ」


 先回りして行く手を阻もうとする葵に、慌てて反論しようとしたけれど、口を人差し指で封じられる。
 そして彼女は、苦しそうに笑った。


「それでは九条くんまた明日。13時に。片付け頑張りましょうね」


『本当にありがとう』と口を動かして、葵は逃げるように去って行った。