それからは、『変なこと』には触れないよう、ツバサも『変なこと』を言わないよう、二人の会話に参加した。すると、横からつんつんと葵が腕を突いてきて、スマホの画面を見せてくる。
┌ ┐
ありがとう、話を合わせてくれて。
今、シントはわけあって
前みたいに話せないの。
ツバサくんもシントの前では気をつけて。
わたしたちがこんな風に話してたら、
これからも気を付けて合わせて欲しい。
わたしと、仲が良くない振りをして。
お願い。
└ ┘
ツバサは思わず目を見開く。
「――――ッ」
声が出そうになったけれど、わざわざ文字にして伝えてくるということ、何か話しちゃいけないわけがあるんだと思い、自分のスマホのメモ帳を開く。
┌ ┐
どういうことだよ。
わけわかんねえ。
話せないって何?
お前が迎えを呼んでることと
何か関係があるのかよ。
お前が仮面着けてることと、
関係があるのかよ!
俺らと友達だって
隠すのはなんでなんだよ!
└ ┘
悔しさに思わず下唇を噛む。
でも、葵もシントも、結局最後まで何も言わなかった。
それからすぐ家に着き、空気に耐えられず「ありがとうございました」と急いで車を降りる。葵も、助手席に乗り直すのか一旦降りていた。
すると車の中にいるシントへ目配せをして、葵は少しだけ話をしてくれる。
「ありがとうツバサくん。合わせてくれて」
「……何。今は大丈夫なの」
小声に小声で返す。でも、彼女は苦笑を浮かべるだけ。
「ほんとは、こんな状況だってことも話すつもりはなかったんだけど」
「なんで? やっぱり家か? シントさんも家に何か言われてんの」
「……ツバサくん。ここまでだ」
けれど、すぐに葵の空気ががらりと変わる。真っ直ぐこちらを見上げる視線は、はっきりと拒絶を示していた。
「これは『言えない』ことであり『言いたくない』ことだ」
「あ、おい……」
「ありがとう、ツバサくん。『何も聞かないでいてくれて』」
「――っ! 葵ッ、俺は――んっ」
先回りして行く手を阻もうとする葵に、慌てて反論しようとしたけれど、口を人差し指で封じられる。
そして彼女は、苦しそうに笑った。
「それでは九条くんまた明日。13時に。片付け頑張りましょうね」
『本当にありがとう』と口を動かして、葵は逃げるように去って行った。



