すべてはあの花のために⑤


「さっきまでここにいたんだっけか」

「うん。そう」


 葵は、ベッド上に置いたままだった【カード】に視線を落とす。


「お前らのカード?」

「うん。そうだよ。……そうだった、はずだよ」


 このカードを見ると、どうしても違和感が拭えない。


「なんだよそれ。意味わかんねえんだけど」

「……わたしにも、わかんなくて……」


 無性に切なくなって、カードを大事に胸の中で抱き締める。そんな葵を、ツバサはただ何も言わず、心配そうに見守っていた。

 気付けば、時刻は23時になっていた。


「明日また、みんなから今日のこと聞かれるかもしれない」

「そうだね。でもみんなに嘘はつきたくないから、『言えないこと』にしておくよ」

「葵……」

「ううん。違うか。……『言いたくないこと』の方かな、これは」


 何度か何かを言おうとして、結局ツバサはそれを飲み込んでいた。そんな彼に、今できる精一杯の笑顔で笑う。


「ツバサくんありがとう。きっと今回のこと、話せるのはツバサくんだけだったんだ」

「あおい……」

「だから、わたしに気がついてくれてありがとう。何も、聞かないでいてくれて、ありがとう」

「っ、……本当は。聞きてえよ」


 ツバサは苦しそうに視線を下げながら、握り拳を作る。


「でも。……俺も、聞かないでくれて、ありがとう」

「……うん。どういたしまして、かな」

「まだ、……無理なんだっ」

「うん。大丈夫。わかってるよ?」


 そっと、彼の手を上から包み込むように触れる。


「わたしも、ギリギリまで待つからね」

「え。……それってどういう」

「ツバサくんがつらくなって、自分の思いを押し殺しちゃうようになったら、わたしはもう待たないよってこと」

「……そっか。うん。わかった」


 彼はそっと、葵の頬に手を伸ばす。


「俺もだから」

「え?」


 やさしく撫でるツバサの手が、気持ちよくて、ちょっとくすぐったい。


「俺も、ギリギリまで待つからな」

「ツバサくん……」

「お前がつらいって言うなら、何が何でもお前から話を聞き出すよ。それでお前が助けられるんなら、俺はお前に嫌われたっていい」

「……嫌いになんて、なるわけないじゃん」


 頬に添えられている手に、そっと自分の手を重ねる。
 見た目は女の子。今はタキシードだけど、大きくてあたたかいこの手は、やっぱり男の子だ。


「ありがとうツバサくん。今日も、これまでも、それから『これから』も。……いつでも言って。いつだってわたしは、君の背中を押しに行ってあげるから」

「俺もだよ。……いつでも言え。葵」


 ふわりと、ツバサが葵を抱き締めてくれる。葵は、その居心地の良さにゆっくりと目を閉じた。