「さっきまでここにいたんだっけか」
「うん。そう」
葵は、ベッド上に置いたままだった【カード】に視線を落とす。
「お前らのカード?」
「うん。そうだよ。……そうだった、はずだよ」
このカードを見ると、どうしても違和感が拭えない。
「なんだよそれ。意味わかんねえんだけど」
「……わたしにも、わかんなくて……」
無性に切なくなって、カードを大事に胸の中で抱き締める。そんな葵を、ツバサはただ何も言わず、心配そうに見守っていた。
気付けば、時刻は23時になっていた。
「明日また、みんなから今日のこと聞かれるかもしれない」
「そうだね。でもみんなに嘘はつきたくないから、『言えないこと』にしておくよ」
「葵……」
「ううん。違うか。……『言いたくないこと』の方かな、これは」
何度か何かを言おうとして、結局ツバサはそれを飲み込んでいた。そんな彼に、今できる精一杯の笑顔で笑う。
「ツバサくんありがとう。きっと今回のこと、話せるのはツバサくんだけだったんだ」
「あおい……」
「だから、わたしに気がついてくれてありがとう。何も、聞かないでいてくれて、ありがとう」
「っ、……本当は。聞きてえよ」
ツバサは苦しそうに視線を下げながら、握り拳を作る。
「でも。……俺も、聞かないでくれて、ありがとう」
「……うん。どういたしまして、かな」
「まだ、……無理なんだっ」
「うん。大丈夫。わかってるよ?」
そっと、彼の手を上から包み込むように触れる。
「わたしも、ギリギリまで待つからね」
「え。……それってどういう」
「ツバサくんがつらくなって、自分の思いを押し殺しちゃうようになったら、わたしはもう待たないよってこと」
「……そっか。うん。わかった」
彼はそっと、葵の頬に手を伸ばす。
「俺もだから」
「え?」
やさしく撫でるツバサの手が、気持ちよくて、ちょっとくすぐったい。
「俺も、ギリギリまで待つからな」
「ツバサくん……」
「お前がつらいって言うなら、何が何でもお前から話を聞き出すよ。それでお前が助けられるんなら、俺はお前に嫌われたっていい」
「……嫌いになんて、なるわけないじゃん」
頬に添えられている手に、そっと自分の手を重ねる。
見た目は女の子。今はタキシードだけど、大きくてあたたかいこの手は、やっぱり男の子だ。
「ありがとうツバサくん。今日も、これまでも、それから『これから』も。……いつでも言って。いつだってわたしは、君の背中を押しに行ってあげるから」
「俺もだよ。……いつでも言え。葵」
ふわりと、ツバサが葵を抱き締めてくれる。葵は、その居心地の良さにゆっくりと目を閉じた。



