「葵どこがいい? どこが落ち着ける?」
「つ、つばさくん! 痛いよ!」
ドレスではなくタキシードを着たツバサは、葵を逃すまいと掴んだ腕を放さない。
「つ、つばさくん! 別にわたしどこにも行かないから! ちょ、ちょっと緩めて! 手と足! 痛いし転けそう!」
生徒会一背が高いツバサの足の長さに比べたら、きっと葵はこどもも同然だろう。
「さっきまではどこにいた?」
「え? ほ、保健室」
急に立ち止まったツバサは、慌てた様子で振り返り葵の肩を掴む。
「怪我したのか!」
「う、ううん。してないっ!」
心底ほっとした様子で、ツバサの頭が肩に乗っかってくる。
「……勘弁してくれ……」
「ご。ごめんなさい……」
今は葵よりもツバサの方が、つらそうに息を吐いていた。肩を震わせていた。
「つばさくん。取り敢えず行く? 保健室」
「……行く」
「あ。で、でもあの。ちょっとだけ、英語教室に寄ってもいい?」
「それは構わないけど……どうして?」
悩んだのはほんの一瞬。「ツバサくんになら……」と、葵はわけを話すことに。
――――――……
――――……
「保健室の前に、ここにいたって月雪に教えてもらった?」
「うん。そうなの」
ガラガラと音を立てて、二人は教室の中へと入る。
「……覚えて、ないのか」
「うん。そうなの。……わたし、覚えてないの」
そう受け答えをしながら、葵は教室内をぐるっと一周、ゆっくりと回る。
「……どこから。どこから覚えてない」
「停電したこと、覚えてなかったんだ」
「……なら、みんなで散らばって逃げたのは?」
「それは覚えてる。その後わたし、一旦控え室戻ったの」
「は? なんで」
「か、カード取り忘れてて」
「バカだろお前」
あははと葵は苦笑い。
「(まあ、今回ばかりは自分が悪い。あの時までに取っておけば、あんなことには――……)」
……あれ。
「(今。どうして、そう思ったの? 普通に、持ってたじゃん。レンくんと同じカード)」
葵はふと立ち止まる。そして、教室の窓から月を見上げた。
「(……あ、れ。どうしてこんなに胸が……い、いたたた)」
「それで? カード取ってからどうしたんだよ」
「っ、えーっと。しばらく控え室いて、悲鳴が小さくなった頃に会場戻って、ペアを捜したの」
「何勝手に一人で寛いでんだよ。あの時大変だったんだぞ。主にチカが」
「あはは。だよねー」
でも、そこで葵の記憶は途切れていた。
「そのあと、気がついたら保健室のベッドの上だったの」
「気がついたのはいつ。それは覚えてるか」
「レンくんに少し話を聞いてもらって。ダンスを何曲か踊って22時になったから……逆算して、21時半くらいとしか。曖昧でごめん」
「……レンくん、ね」
ツバサのその呟きは、葵の耳には届かなかった。
「(一体。何があったんだろう。どうして。涙が止まらなかったんだろう……)」
月を見上げていると、胸が切なく痛むのはどうして――……?



