すべてはあの花のために⑤


 しばらくして、22時を知らせる鐘の音が響いた。
 パーティーは一応終了予定。ほんの少しだけ、物足りなく感じた。


「ありがとうございました。とても、楽しかった」

「……もう、大丈夫そうですか」


 一曲で終わらず、何曲もそのあと一緒に踊った。その間に、葵の涙もようやく止まった。


「はい。ご迷惑をお掛けしました」

「いいえ。……言ったでしょう。私の前では泣いていいと」

「お気遣いありがとうございます。にしても、どうしてわたしは泣いていたのでしょう……」


 けど彼は、何故か切なそうに笑うだけ。


「あまり気にしない方がよろしいかと。余程つらいことがあったのではないかとお見受けしますので」

「……そう、ですね。でも、今日のことは内緒で、何卒お願いします」

「はは。……はい。わかりました」


 二人は互いのプレゼントを持ち、保健室を後にする。


「あおいさんは、このあとのご予定は?」

「あ。わたしは尋問の予定が」

「はい?」


 目を点にして彼が聞き返してくるのがおかしかった。


「そうなりますよね。そもそも、どうしてわたしが尋問されなくてはいけないのでしょう」

「え? 冗談とかではないんですか?」

「何も悪いことはしてないんですけど、どうやらみんなの気に障ってしまったようで……」

「えーっと。よくわかりませんが……が、頑張って?」

「せっかくですし、レンくんも一緒に来ませんか? あなたがいれば心強いんですけど」

「すみません。そう言っていただけて嬉しいのですが、私も今日はもう帰らないと」

「そうですか。それは残念です」


 葵はしょんぼりした。だって、このあと本当に怖いんだもの。

 帰らないといけないというのに、彼は体育館の控え室まで送ってくれた。


「それではあおいさん。また」

「今度お会いできるのは年明けでしょうか」

「そんなに、私と会えないことが寂しい?」

「え――」


 腕を引いて、彼はそっと抱き締めてくる。


「れ、れんくんっ? に、日本式で……」

「きっとすぐですよ。だから、そんな寂しそうな顔しないでください。離れがたくなる」

「……!」


 彼は葵の額にキスを落とし、小さな微笑みを残して帰っていった。