カードをすっかり取り忘れていた葵は、ひとまず控え室へと戻っていた。
「まさかミニスカがそんなに好評だったとは……」
額の汗を拭いながら、みんなはどこへ行ったのかなーと、葵は何の気なしにボックスに残っている最後の一枚を取り出した。
「あれ? わたし、無地は作ってなかったと思うんだけど」
それはただの【緑色のカード】で、何の絵柄もなかった。
「入れたっけ? いやいや、そんな記憶は」
可能性としてあるのは刷り漏れだろう。300枚以上作ったから、絵柄の抜けがあったのかもしれない。
「だったら逆に見つけやすいかも。でも……も、もう少し静かになったら出て行こうかな。うん」
会場からは女の子と奇声と、少しだけ男性の声が響き渡っている。一番追いかけられているのは、間違いなくチカゼだろうけれど。
「ふう。……取り敢えずは何もなかった。まあ『あれ』が入ってる時点で、もう始まってるのかもしれないけど」
葵はケーキに入っていたものを思い出す。生徒全員へ渡すのに、生徒会メンバーだけでなく店員にも少し手伝ってもらっていた。
「……わたしは、その人からもらった。それならピンポイントであのケーキを渡すのも簡単だ」
周りを見渡すのに意識を集中していたから、残念ながら顔は見ていない。でも、その店員たちはすでに撤収している。
「きっと、お店の人じゃないんだろうし……まずはペアの人が見つからない人の手伝いをしないと」
葵はだいぶ静かになった会場へと足を進めた。流石に大人数。見つけ出せない人がいると思うので、マイクでそれは見つけてあげる手筈になっていた。
「(なんだかお披露目式を思い出すなあ)」
真っ赤なドレスに身を包み、真っ赤な口紅を引いた葵は、コツコツと真っ赤な靴音を響かせ、会場へと続く廊下を進む。
「(あの時は、逃げ込んだ先にチカくんがいたんだっけー。懐かしいなあ。変な誓いもさせちゃったけど……それでも、なんだかんだ楽しかった)」
まさか二重の意味が込められてるなんて思わなかったけど。
「さてと。わたしも、ペアの人を見つけますかね」
未だざわつく会場内に、一歩足を踏み入れた。
「道明寺さーん! カード! カードを教えてくださーい!」
「んー残念ながら、わたしのカードとは違うようですね」
通りかかる度男性に声をかけられ、その度に落ち込ませてしまったけれど。
「(みんなはどこへ行ったんだろう。流石に後夜祭みたく、会場から出てることはないだろうけど)」
ふと、キサとキクの姿が見えた。とても嬉しそうに、プレゼントの交換をし合っている。他の生徒会メンバーも、続々とペアの相手が見つかっているようだ。
「(男子メンバー引き弱いよね。全部キサちゃんに持って行かれてる感)」
歩きながらどうしてもペアが見つからなくて困っている人を見つける度、マイクを使って探してあげていた。そうこうしてると、見知った人が真っ直ぐに葵へ向かってくる。
「あおいさん。もしよろしければ、カードを教えていただけませんか?」
後ろからぞろぞろと女の子が付いて来ていたけれど、彼の視界には全く入っていないようだった。彼もなかなかに図太い神経の持ち主のよう。
葵は仮面を着けて「緑の【無地】のカードですよ」と微笑んだ。
「えっ? それ、本当ですか?」
「え?」
まさか、そんなことがあるのだろうか。一体、どれだけの確率だと……。
「無地の人なんてまわりにいらっしゃらなくて。もしかして一人だけなのかと」
あまりにも彼が嬉しそうに笑うので、いたたまれなくなり少しだけ視線を逸らす。その頃には先程まで付いて回っていた女の子たちも、肩を落として立ち去っていた。どうやら、彼にペアがいなければ、そのままその座にありつこうとしていたようだ。
「……それに、少し特別な感じがしました」
「特別、ですか?」
「先程東條さんは『ペアの人と会って始めて何が書かれてるかわかる』と仰っていましたでしょう? でも私のカードは、何と書かれているかすぐにわかったので」
そう言って彼は、外側が緑のカードをゆっくり開いて見せた。



