すべてはあの花のために⑤


「その日はデートなんです(お礼分のだけど)」


 控え室は、みんなの絶叫でちょっと揺れた。
 その時、20時15分前にセットしたアラームも鳴った。


「時間ですね。大急ぎでわたしたちも着替えましょう。アキラくん、ケーキは裏の冷蔵庫に準備していたんでしたっけ」

「……え。あ、葵?」

「なんですか? 早くしないと皆さんが困ってしまいますよ」

「あおいチャン? い、今、なんて言った?」

「え? だから、ケーキは裏の冷蔵庫にあるのかと」

「その前だっつの!」

「えっと、『大急ぎで着替えましょう』?」

「アオイちゃん、わざとやってるでしょ」


 カナデ並びに他のみんなの視線が怖くなっていく。


「だから言いたくなかったんですよう」


 空気が一気に殺気や嫉妬で膨らんだ。


「みんな、22時にもう一度ここへ集合だ」

「え? な、何故ですか?」


 葵に容赦なくみんなの視線がぶっ刺さる。


「あーちゃん? おれら、聞きたいこといっぱいあるんだよねー?」

「え? お、オウリくん、ですよね?」

「何勝手にデートの約束入れてんだよ」

「つ、ツバサくん?! 男の子バージョンになってますよ?!」

「下僕のくせにいい度胸。再び尋問を行います」

「ええ!? あ、あの券は使わないでいただけると……」

「返答による」

「(あ。ダメだ。使われるわこれ)」


 そんな様子に、キサ一人だけ「修羅場!?」と楽しそうだった。
 そのあと時間が差し迫ってきていたので、大急ぎで更衣室へ分かれ、また冷蔵庫の前で集合することに。


「え。あっちゃん、それ着るの?」

「? 変でしょうか」

「いや変じゃないんだけど。……なんだろう。似合ってないわけじゃないんだけど、やっぱり違う気もするんだよね」


 悩ましげに腕を組むキサに、少しだけ仮面を外して、そっと感謝を告げた。


「あっちゃん?」

「時間もないことですし、早く行きましょう。お店の方が手伝ってくれるにしても、全校生徒に配るのには時間がかかってしまいますよ」

「う、うん。そうだね!」


 葵たちが運ぶのは、各クラス一番近い壁側の空いたテーブル。ケーキはそこから取ってもらう手筈になっている。きちんとみんなに手渡ったら、カナデに合図して一斉に食べてもらう算段だ。

 冷蔵庫のところへ行くと男性陣はもう来ていて、どこか空気がピリついていた。


「お待たせして申し訳ありません」

「ごめーん! 遅くなった!」


 バッと振り返った男性陣の顔は殺気立っていたけれど、葵の姿を確認した瞬間、それは驚愕へと変わる。


「葵、それ……」

「アキラくん。まずはケーキからですよ」

「でも、アオイちゃん」

「カナデくん? 急がないと、皆さん待っていますよ」

「なんでお前、真っ赤(、、、)なんだよ」


 チカゼと同じようなことを、みんなも思っているようだった。


「……似合いませんか?」

「別にそんなことはないわよ」

「だったらいいじゃないですか」

「でも、あおいチャン……」

「おれは似合わないと思う!」

「後夜祭の時は見つけていただけなかったので、今度は見つかりやすいようにしただけですよ」

「まあ目立つだろうけどさ」


 ――そう。たとえ『何があっても』見つけやすいように。