すべてはあの花のために⑤


「メリークリスマス! ようこそいらっしゃいました。男性の方は右側のボックスから、女性の方は左側のボックスから、一人一枚カードをお取りくださいませ」


 説明をしながら、似たような文が書かれた看板を持って入り口で声を出していた。
 女性からは「可愛い!」「足綺麗!」と褒められ「ありがとうございます」と素直に微笑んで受け取った。男性からは「やばっ。あれはダメだろ……」「ど、道明寺さん! よければ写真を……」「こ、これ! 俺の連絡先――」など諸々言われたけれど華麗にスルーしておいた。


「(うん。大丈夫みたい。ちゃんと一人一枚ずつ取って行ってるし、取り忘れもなしっと)」


 そうこうしていると、見知った髪色がやってくる。


「MerryXmas.あおいさん」

「ふふ。本当のクリスマスにはまだ少し早いですけどね?」


 燕尾服に身を包み、彼が葵の前へとやってきた。
 まわりの男性たちは、彼の顔を見るなり「あれには勝てん」「リアル王子じゃん……」など諸々ぼやきながら、背中を丸めて館内へと足を踏み入れていた。女性たちは「きゃー! レンレンだあー!」と黄色い声援を送っていた。人気がある人なんだと、ここで初めて知った情報だ。


「わたしも、レンレンとお呼びした方がよろしいですか?」

「い、いえ。今のままで大丈夫です。少し恥ずかしいので」


 そうか。じゃあ、いじってあげる時だけ呼びましょう。


「それにしてもあおいさん、……短くないですか」

「そうなんです。わたしもそう思うんですけど……」


 そう言って少しだけスカートを下ろそうとする。


「でも、ダンスをする時は着替えるので」

「あまり高いところへ行かれない方がよろしいかと」

「一応ショートパンツを履いてるので大丈夫ですよ?」

「いえ。あなたよりも、見ている方たちの方がダメージを受けると思うので……」


 よくわからないまま首を傾げていると、そういえばと思い出す。


「レンくん。クラス全員を誘ってくださってありがとうございます」


 改めてお礼を伝えると、彼は首を振って「違いますよ」と微笑んだ。


「その日の放課後には、クラス全員満場一致で参加すると言っていましたよ。ポスターのおかげなのではないでしょうか」

「いえいえまさか。毎年のことですから、きっと皆さん前々から楽しみにされていたんですよ」

「素直に自分の手柄だとお喜びになればいいのに」


 昨日のこともあれば、ポスターのこともあったから、素直に頷けない。それに。


「(術中にはまっていってるような感覚がして、逆に不快感が……)」

「何か、あったんですか」


 少しだけ眉を寄せると、どうやら彼にも心配を掛けてしまったようだ。


「いいえ。今日はどなたとダンスをするのかなと思っただけですよ」


 すると、彼はふわりと笑った。


「その座は是非、私が戴きたいものです」

「え?」

「I wish you a joyful Christmas from the bottom of my heart.」

「……!」


 楽しいクリスマスを心から祈っています――そう囁きながら、葵の片手を掬うように持ち上げた彼は、手の甲にキスを落とす。案の定まわりからは奇声が。けれど、葵はそれどころではなかった。バクバクと心臓がうるさく鳴っていたからだ。
 顔を真っ赤にした葵に満足そうに笑い、彼は身を翻して館内へと足を進めていった。

 クリスマスパーティー開始まで、あと…………30分。