「メリークリスマス! ようこそいらっしゃいました。男性の方は右側のボックスから、女性の方は左側のボックスから、一人一枚カードをお取りくださいませ」
説明をしながら、似たような文が書かれた看板を持って入り口で声を出していた。
女性からは「可愛い!」「足綺麗!」と褒められ「ありがとうございます」と素直に微笑んで受け取った。男性からは「やばっ。あれはダメだろ……」「ど、道明寺さん! よければ写真を……」「こ、これ! 俺の連絡先――」など諸々言われたけれど華麗にスルーしておいた。
「(うん。大丈夫みたい。ちゃんと一人一枚ずつ取って行ってるし、取り忘れもなしっと)」
そうこうしていると、見知った髪色がやってくる。
「MerryXmas.あおいさん」
「ふふ。本当のクリスマスにはまだ少し早いですけどね?」
燕尾服に身を包み、彼が葵の前へとやってきた。
まわりの男性たちは、彼の顔を見るなり「あれには勝てん」「リアル王子じゃん……」など諸々ぼやきながら、背中を丸めて館内へと足を踏み入れていた。女性たちは「きゃー! レンレンだあー!」と黄色い声援を送っていた。人気がある人なんだと、ここで初めて知った情報だ。
「わたしも、レンレンとお呼びした方がよろしいですか?」
「い、いえ。今のままで大丈夫です。少し恥ずかしいので」
そうか。じゃあ、いじってあげる時だけ呼びましょう。
「それにしてもあおいさん、……短くないですか」
「そうなんです。わたしもそう思うんですけど……」
そう言って少しだけスカートを下ろそうとする。
「でも、ダンスをする時は着替えるので」
「あまり高いところへ行かれない方がよろしいかと」
「一応ショートパンツを履いてるので大丈夫ですよ?」
「いえ。あなたよりも、見ている方たちの方がダメージを受けると思うので……」
よくわからないまま首を傾げていると、そういえばと思い出す。
「レンくん。クラス全員を誘ってくださってありがとうございます」
改めてお礼を伝えると、彼は首を振って「違いますよ」と微笑んだ。
「その日の放課後には、クラス全員満場一致で参加すると言っていましたよ。ポスターのおかげなのではないでしょうか」
「いえいえまさか。毎年のことですから、きっと皆さん前々から楽しみにされていたんですよ」
「素直に自分の手柄だとお喜びになればいいのに」
昨日のこともあれば、ポスターのこともあったから、素直に頷けない。それに。
「(術中にはまっていってるような感覚がして、逆に不快感が……)」
「何か、あったんですか」
少しだけ眉を寄せると、どうやら彼にも心配を掛けてしまったようだ。
「いいえ。今日はどなたとダンスをするのかなと思っただけですよ」
すると、彼はふわりと笑った。
「その座は是非、私が戴きたいものです」
「え?」
「I wish you a joyful Christmas from the bottom of my heart.」
「……!」
楽しいクリスマスを心から祈っています――そう囁きながら、葵の片手を掬うように持ち上げた彼は、手の甲にキスを落とす。案の定まわりからは奇声が。けれど、葵はそれどころではなかった。バクバクと心臓がうるさく鳴っていたからだ。
顔を真っ赤にした葵に満足そうに笑い、彼は身を翻して館内へと足を進めていった。
クリスマスパーティー開始まで、あと…………30分。



