「あーちゃんっ。もう大体終わってきたみたいだよ~」
「そうですね。飾りも、あとはくす玉ぐらいでしょうか」
体育館内の飾り付けは無事に終わりを迎えそうだ。ツリーの方も大体は終わって、今はバランスの調整をしている。くす玉は、焦ったら大事故になりかねないので、ゆっくりとマイペースにチカゼとヒナタが指示を出していた。今は、6つ目に取り掛かっているようだ。
「館内は任せて、おれらは先に入り口の飾り付けしに行こっか!」
「そうですね。そうしましょうか」
入り口にも小さいツリーと、魔除けの意味があるリースを飾り付けしなければならない。葵とオウリは、先に二人でそちらへと向かった。
「楽しいパーティーになるといいね~」
「そうですね?」
彼の隣だとふんわりした空気になるので、自然と口角が上がる。
「そういえばあーちゃんってさ、後夜祭どこにいた?」
おーっとこれは不味い。全然答えを用意してなかった。
「みんな血眼になってあーちゃんのこと捜したんだよ~」
「(まさか、途中から会場出てたなんて言えない……)」
「ていうのは冗談で。あーちゃんには見つかりやすいようにみんなわかりやすい恰好してたんだけど、おかげで波にのまれちゃったんだよね~……はは」
「(女の子の波にのまれてしまったのね。君だけは助けてあげたかった……っ)」
「それからはもうみんな散り散り。あーちゃん捜すどころかファンの子から逃げるのに必死で、多分みんな会場から出てたよー」
「そ、そうなんですね」
よかった。誰も体育館裏来なくてと、葵がほっとしていると、オウリがニコッと笑う。
「もしかして、あーちゃんもファンの子に見つかって会場から出てたの?」
「(よしキタ! その手があった!)実はそうなんです。あんまり会場内にいる時間は少なかったかと」
オウリは「やっぱりそっか~」と、あっさり納得してくれた。
「てっきりおれらに見つかりたくなくて、わからないようにしてたのかと思ったよ~」
「(うう。胸が痛い……)」
でもこのことは誰にも言えない。葵と怪盗だけの秘密だから。
「文化祭もさ、いろいろあったよねー」
彼はまだ、声が出なかった。
でも今は、それができるようになった。
「あーちゃん。おれ今、すっごい嬉しいんだ」
「……はい」
「こうやってさ、おれの台詞書いてもらえるようになったし」
「……ハイ?」
「最初の巻とか一言もおれ喋ってないし。頷いてればほぼいけてたし」
「(寝言で喋ってけどね……)」
「文字だと〈〉だし。おれだけちょっと特別感あったよねー」
「そ、そうでしたけど……え? 嬉しいってそれですか?」
オウリが嬉しそうに笑って首を振る。
「それもちょっとはあるんだけど」
「(あるんだね)」
「でも、おれ自身話せるようになれて嬉しいんだ」
「(……うん。大丈夫。ちゃんとわかってるよ)」
改めてそう言う彼の言いたいことなんて、わからないはずがない。
「最近は、冷たくなってない?」
「最近は……はい。大丈夫だと思います」
恐らく、修学旅行でツバサと一緒にいた時以来、なっていないはず。それが最近に入らないかどうかは、葵の感覚でしかないけれど。
「おれさ、あーちゃんのこと治してあげるって言っておきながら、何にもできてないんだよ。治し方わかんなくて」
「オウリくん……」
「ねえあーちゃん。それってどうやったら治せる? もうおれ、冷たくなって欲しくなくて」
「……オウリくんすみません。それについて、わたしは言えないんです」
すると、オウリは弾かれたようにバッと顔を上げる。
「今、なんて言ったのあーちゃん。言えないこと?」
「おうりくん……」
「あーちゃん、矛盾してる。それともおれの記憶違い? あーちゃんこの前は、『言いたくない』って。そう言ってたよ?」
「それは……」
「もしかして『冷たくなること』は『言いたくても言えない』の? それ以外に、おれらに『言いたくないこと』があるの?」
葵は、それ以上は何も話さなかった。
ただそのあとずっと、苦笑を浮かべるだけ。
「……っ。そんなのもう……ッ」
それから先の言葉は、彼からこぼれ落ちてこなかった。
クリスマスパーティー開始まで、あと…………2時間。



