「……だからわたしは、悲しいお話だとは思わないんだ」
小さく笑う葵は、マナティーを見上げた。
「一瞬でも、人魚姫はきっと王子を殺してしまおうと過ったと思う。だって、自分が海の泡になってしまうから。でも、きちんとそのことを改めて思い止まった。それを天使は見ていてくれたから、神様も見ていただろうから、人魚姫にチャンスをあげたんだ。人のためになることをしなさいって。そうしたら、あなたは幸せになれますよって。……これは、人魚姫が罪滅ぼしをするきっかけになった話だ。それで幸せになれるなら、わたしはいいなって。そう思う」
その横顔からは、彼女が何を思っているのかはよくわからない。
それ以前に、そもそもの話だ。
「(……罪滅ぼし? 人魚姫は悪いことしてないじゃん。それなのに、どうして『いいな』って。そんなこと言うの)」
カナデが振り向いて欲しくて葵の手を握り締めるが、その間彼女がマナティーから視線を外すことはなかった。



