「アキラくん放して! じゃないとアキラくんまで落ちちゃう!」
「――! ……っ、断るッ」
「だ、大丈夫だから!」
「お、……俺はもう。お前が落ちるのは見たくないんだ!」
「(……一体いつの話をしてるの)」
海で落ちたことは気にしないでって。自分のせいだからって。そう言ったのに。
「(……わたし、どうしてこんなに臆病になってたんだろう)」
何が、時間がないだ。何が赤だ。ただの色でしょ。何が……っ。
「(っ、何が友達だ! このばかちんがあ!)」
仮面なんか、天高く放り投げた。
「ちょっとアキラくん! 放せって言ってんでしょうが!」
「……!?!? へ? い、いやだっ!」
「駄々捏ねてんじゃないの! 放さないとアキラくんが落ちるって言ってんの!」
「だ、だから俺は、もうお前が落ちるのは見たくな」
「だあかあらあ! 腰にロープ付いてんの! あなた付けてないでしょ! 落ちたとしてもネット張ってあるから大丈夫なの!」
「……っ、でも。もしものことがないとは限らないッ」
不安でいっぱいのアキラの手を、ぎゅっと握る。
「大丈夫だよアキラくん」
「……葵」
「こんなことでわたしは消えないから。……だから、安心して?」
「……ッ」
風に煽られているため、引き上げることは疎か、掴んでいるので精一杯なのだろう。それも限界になってきたのか、力がだんだん入らなくなってきている。
「……アキラくん、ごめんね」
「は? 何言っ」
「口聞かないなんて、そんなの無理だった」
「……俺だって」
「うん。いつも寂しそうな顔してた。ちゃんと知ってる。気づいてたよ」
「……っ、おれ。は……っ」
「まあ、近づくなって言ったのに、先に近づいたのはアキラくんだけど」
「……俺は、離れないって決めたから」
「そっか。……でもごめんね。やっぱり言いたくなくて。それはわかって欲しいな」
「それは、……いやだけど。でも、お前に近寄れないのも、話せないのもいやだから……」
「アキラくん……」
「……ちょっとだけ。我慢する」
「ぶはっ! 何それ。ていうか、こんな状態で話すことじゃないから、さっさと放して? 下に下りたら、その我慢とやらを聞いてあげようじゃない」
「…………」
「アキラくんお願い。わたしの大切なあなたを、これ以上『傷つけたくない』の」
彼は、気付いているだろうか。
ううん。きっとまだ気付いてない。
『傷つけたくない』と言った、今この時以外の……もうひとつの意味を。



