すべてはあの花のために⑤


「アキラくん放して! じゃないとアキラくんまで落ちちゃう!」

「――! ……っ、断るッ」

「だ、大丈夫だから!」

「お、……俺はもう。お前が落ちるのは見たくないんだ!」

「(……一体いつの話をしてるの)」


 海で落ちたことは気にしないでって。自分のせいだからって。そう言ったのに。


「(……わたし、どうしてこんなに臆病になってたんだろう)」


 何が、時間がないだ。何が赤だ。ただの色でしょ。何が……っ。


「(っ、何が友達だ! このばかちんがあ!)」


 仮面なんか、天高く放り投げた。


「ちょっとアキラくん! 放せって言ってんでしょうが!」

「……!?!? へ? い、いやだっ!」

「駄々捏ねてんじゃないの! 放さないとアキラくんが落ちるって言ってんの!」

「だ、だから俺は、もうお前が落ちるのは見たくな」

「だあかあらあ! 腰にロープ付いてんの! あなた付けてないでしょ! 落ちたとしてもネット張ってあるから大丈夫なの!」

「……っ、でも。もしものことがないとは限らないッ」


 不安でいっぱいのアキラの手を、ぎゅっと握る。


「大丈夫だよアキラくん」

「……葵」

「こんなことでわたしは消えない(、、、、)から。……だから、安心して?」

「……ッ」


 風に煽られているため、引き上げることは疎か、掴んでいるので精一杯なのだろう。それも限界になってきたのか、力がだんだん入らなくなってきている。


「……アキラくん、ごめんね」

「は? 何言っ」

「口聞かないなんて、そんなの無理だった」

「……俺だって」

「うん。いつも寂しそうな顔してた。ちゃんと知ってる。気づいてたよ」

「……っ、おれ。は……っ」

「まあ、近づくなって言ったのに、先に近づいたのはアキラくんだけど」

「……俺は、離れないって決めたから」

「そっか。……でもごめんね。やっぱり言いたくなくて。それはわかって欲しいな」

「それは、……いやだけど。でも、お前に近寄れないのも、話せないのもいやだから……」

「アキラくん……」

「……ちょっとだけ。我慢する」

「ぶはっ! 何それ。ていうか、こんな状態で話すことじゃないから、さっさと放して? 下に下りたら、その我慢とやらを聞いてあげようじゃない」

「…………」

「アキラくんお願い。わたしの大切なあなたを、これ以上『傷つけたくない』の」


 彼は、気付いているだろうか。
 ううん。きっとまだ気付いてない。

『傷つけたくない』と言った、今この時以外の……もうひとつの意味を。