ある日、王子様が船から落ちたところを、人魚姫は助けました。
必死に声を掛けますが、王子は起きません。
そこに女の人が現れて、人魚姫は隠れましたが、その人が王子を助けてくれました。
王子は、その人が命の恩人だと思います。
でも王子のことを愛おしいと思っていた人魚姫は、魔女のところへ行って、自分の美しい声と引き替えに、人間になりました。
その時に魔女はこう言います。
『王子が他の娘と結婚すれば、二度と人魚には戻れない。海の泡になって消えるんだ』
人間になり、声が出なくなった人魚姫は、王子様のところで妹のように可愛がられました。
しかしある日、王子が嬉しそうに人魚姫にこう話します。
『自分の命の恩人の隣国の姫と、結婚するんだ』
人魚姫は言いたかった。助けたのは自分だと。
でも、それがもうできなかった人魚姫は、諦めたように、悲しそうに笑います。
結婚式の日が近づいてきて、人魚姫の姉たちが海に浮かんできます。
魔女からナイフをもらってきたのです。
『それで王子の胸を刺せば、人魚姫は海の泡にならなくて済むわ』
――……と。
「でも王子は気がつくんじゃないの? なんで人魚姫は自分だって言わなかったの。喋られなくたって、オウリみたいに文字で伝えることだってできたじゃん」
「……きっと、王子があまりにも嬉しそうに結婚の報告をしたからじゃないかな。自分にとって大切な人が幸せなことこそ、人魚姫の幸せだったんだ」
だから人魚姫は、王子の胸にナイフなんて刺せなかった。
自ら、海の泡となって消えることを選んだ。
愛する人を……王子様を、殺すことなんてできなかった。
「……悲しい話なんだね」
「……海にナイフを捨て、人魚姫も海に飛び込みました」
すると海に、朝日が差し込み、人魚姫は天に昇っていきます。
その時、天使の声が耳に入ってきました。
『これから300年、人のためになることをすれば、きっと神様はあなたに変わらない幸せを与えるでしょう』



