そう言うと、すっと彼は顔を正す。
「あ、あおいさん。あなたはもっとしっかりガードをした方がいいです。お礼だからと、相手が喜んでくれるからって、やり過ぎはよくありませんっ」
「え? わ、わたし、結構腕立ちますけど……」
「そういう意味じゃありません。もうちょっと危機感を覚えてくださいと言っているんですっ」
「……じゃあ、お礼。やめます?」
「それはいやです」
「……結局、わたしはどうすればいいのでしょうか」
「か、……簡単に。お礼だからってそういうことするのはよくないって。そう思うんです俺は」
なるほど。注意をしてくれたと。
「……ちゃんとわかってますよ?」
「にしたって簡単すぎます……!」
必死な様子の彼に、葵はふっと笑う。
「アイくんはそんなことするような人じゃないって。ちゃんとわかっています」
「へ?」
「でもアイくんがそこまで言うなら、お礼は違うものに」
「いやです」
「でも、心配なんでしょう? ガードが緩いから」
「お、俺には。ガードは緩くて。いいんです……」
耳まで真っ赤にしながら、両手で顔を押さえている彼は、やっぱり格好いいというより可愛らしい。
「……では、いつがよろしいですか?」
そんな彼のおかげか、さっきのことを思い出しても、なんだか気持ちが軽い。
「……で、できれば年内がいいな」
「そうですね。年末は忙しいので、それ以降じゃないと難しいんですが……」
すると、彼は「だったら……」と、日にちを提案してくれた。
「ではその日にしましょう」
「い、いいんですか?」
「その日はご都合がよろしいのでしょう? わたしも夕方まででしたら空いているので、その日だと有り難いです」
「……こんな調子で、大丈夫かな……」
「? 何か言いましたか?」
「いいえ。俺のこと何とも思ってないんだなーとか、そういうことに全く興味がないんだなーとか。そんなこと思ってませんっ」
「?」
「はああー。……なんだこの虚しさ」
ともあれ、気持ちに押し潰されそうになっていたところをアイに助けてもらった葵は、無事に約束を取り付けることができた。
「ありがとうございましたアイくん。それではまた」
「また詳細は、こちらからご連絡させてもらっても?」
「はい。アイくんへのお礼なので、寧ろお願いしたいです」
「……わかりました。それではまた後日、ご連絡しますね」
彼にコートを返そうと思ったが、「寒いですから、よければ着て帰ってください。今度あったかい恰好で、それを返してもらえたら」と。そう言う彼は、寒くないのか。セーター一枚で花畑を降りていった。
「……ありがとうございます。『あおい』くん」
シントに連絡をした葵も、街灯が照らす道を歩いて帰ったのだった。



