すべてはあの花のために⑤


「ありがとうございますアイくん。……本当に。心が軽くなりました」

「それはよかったです」


 まるで自分のことのように喜んでくれる彼に、心が温かくなる。


「……あの。何かお礼をさせてください」

「ええ?! いりませんよ! そもそもお礼して欲しかったわけではないですし!」

「で、でも。わたしの気が済みませんっ」

「……俺は、あなたが笑えるなら、それでいいんです」


 目の前には、心底嬉しそうに微笑む彼。


「やっと。笑えましたね」


 そういえば、いつの間にか仮面まで外れかかってしまっていた。


「い、いえ。あの。これは……」


 違うというのもおかしい話だ。
 けれど、笑えたのは本当に彼のおかげだし……。


「その。あなたがどうしてもと言うのであれば、お礼は後日でも構いませんか?」

「え? ええ。予定が合えば、わたしは構いません」


 すると彼は希望を耳元でそっと囁いた。


「ええっ!?」

「だ、ダメですよね。やっぱり……」

「えーっと」

「いえいえ! 大丈夫です! ダメ元だったので! となると、お礼お礼……。俺があおいさんにしてもらうことで嬉しいことって言ったら、他に何があるかな……」

「あ、あの。アイくん」

「ん? なんです?」


 葵は、少し目線を斜め下にずらした。


「えっと。……アイくんが、それでいいなら」

「ええ!? い、いいんですかっ?!」

「あ。アイくんが、それがいいということでしたら……」

「お。俺が言うのも変な話ですが、嫌じゃないんですか」


 要望に対して、彼は酷く自信がなさそうだった。


「嫌とは違いますが。しょうがないとも思ってはいませんよ?」

「え? それってどういう……」

「ちょっと楽しみかもと。そう思うわたしがいるってことです」


「ほんのちょっとですけどね?」と、親指と人差し指で小さな隙間を作ってみせる。でも、その葵の最後の言葉は、彼には届いてなかったようで。


「どうしよう。すごく嬉しいっ!」


 その喜びをアピールするかのように、両手で思い切り抱きついてきた。


「あっ! す、すみませんっ」

「いっ、いえ。……よ、喜んでもらえるなら」