彼は一瞬ぽかんとしたあと、小さく笑った。
「なら尚更向こうは謝ってくるんじゃないですか? きっと、あおいさんを叫ばせてしまったことを、とても後悔してると思いますよ?」
「……もう話したくないと。近寄らないでとも。言ってしまったんですが……」
それを聞いたら、彼の顔は引き攣ってしまったけれど。
「おう。それは、ちょっと傷つくかもー……」
「わかってます。……大切な人にそんなこと言うなんて、わたしは最低だ」
再び指先を握り込むと、小さく笑った彼がそっと上から手に触れる。
「あおいさん? そう言えるってことは、自分も悪かったと思ってらっしゃるんでしょう? だったらあおいさんも謝りましょう。それでいいじゃないですか。あなたの大切な人なんでしょう? ちょっと妬けますけどお相手の方も。でもあなたにそう言われてしまったから、向こうは身動きが取れません。あなたから動いてあげないと、向こうは謝ることすら、話すことすら、近づくことすらできないんですから」
「……わかっては。いるんです」
謝りたい。謝りたいけど、それでまた聞いてこられてきたら、同じことの繰り返しになってしまう。それに、きっと動揺してしまうだろうし、何より心の整理ができていない。
「……なら、少し時間を置くのはどうですか?」
「でも、こういうのって早く解決するに越したことはないのでは……」
実際のところ、友達と喧嘩は経験がないにも等しい。その対処法なんてわからないのだが。
「あなたがその状態では、何度やっても同じことになると思いますよ?」
「そう、なんですけど」
「だったら、あなたが落ち着くまで向こうにも待ってもらっておきましょう? あなたが大丈夫だと思ったら、その時謝ればいいんです」
「で、でも。そんなの身勝手では」
そう言うと、彼はぎゅっと両手で葵の震える手を包み込んだ。
「事の発端は向こうからでしょう? きっとお相手も反省していますから、まずはあなたの心を優先してあげましょう? ……今にも崩れていきそうですよ」
「……!」
そうならないようにと、修行をしたつもりだった。時間が足りなかったか、或いは、やっぱり難しい問題なのだろう。葵の中で、なかなか処理ができないから。
「大丈夫です。あおいさんの大事な人なら、きっと待っていてくれますよ」
「……いいんでしょうか。時間を、戴いても……」
「もちろんですよ。俺も、何かお手伝いできることがあれば何なりと言ってくださいね」
ふわりと笑う彼に、葵もぎこちないけど笑顔で返した。



