「――。……アキラくん。すみません」
でも、彼が動かしたのは間違いなく縦。
葵の中で何かが、音を立てて崩れ落ちた。
「わたし、そろそろ失礼します」
彼の肩を押し、ベッドから立ち上がる。
「っ、あおい! まだ話は」
「わたしから話すことはありません」
荷物を持ち、部屋の扉へと足を進めた。
「待て葵!」
「待ちません」
けれどアキラが扉を押さえつけ、葵の行く手を阻んだ。
「なんですか。また月曜日に会えるではないですか」
「俺はまだ、お前に聞きたいことがある」
「『わたし』から聞いたのでしょう? そうなんですよね? ……そうですよ。アキラくんになら『わたし』は話すでしょう。でも、わたしはもう話すつもりはありません。なのでこの手を放してください」
「……さっきから、何わけのわからないことを言っているんだ」
「だから、聞いたのでしょう? それが事実でいいじゃないですか」
「っ、だから。それがまだ不十分だと言って」
「わたしはもう! わたしのことを話したくないと言っているんですっ!」
「――ッ!」
アキラの腕と奥襟を掴み、思い切りベッドへと投げ飛ばす。
「っ、待て! よくわかるように説明を」
「もう口も聞きたくありません」
すぐに起き上がった彼を突き放す。
「わたしの半径10メートル以内に入ってこないでください」
「え。俺ちゃんといい子で待ってたのに……」
「生徒会の仕事以外で、わたしに近づかないでください。仕事以外の話は、もうわたしはあなたと話したくありません」
「……本気、なのか」
沈黙を返すと、彼は泣き出しそうな顔で尋ねた。
「……なんで。いきなりそんなこと……」
「では、この際はっきり言わせてもらいます」
そんな彼を、葵は真っ直ぐに見据えた。
「わたしだって、言いたくないことの一つや二つあります! こんなにしつこく聞かれて本当に迷惑なんですよ! もう。……っ、もう! わたしには関わらないでくださいっ!」
葵は扉を開け放ち、アキラの部屋から出て行った。
「――っ! ま、待て! 葵!」
その背中を、アキラは追うことができなかった。
悲痛な叫び声に。今にも泣き出しそうな顔に。何と声をかければいいか。わからなかったから。何も、できなかったから。
「……ッ。なんでなんだっ。あおい……っ」
ぐっと握り拳を作り、ベッドへ叩きつける。
手の平に血が滲むのも構わないまま、微かに震えながら、アキラは涙を落とした。



