すべてはあの花のために⑤


「――。……アキラくん。すみません」


 でも、彼が動かしたのは間違いなく縦。
 葵の中で何かが、音を立てて崩れ落ちた。


「わたし、そろそろ失礼します」


 彼の肩を押し、ベッドから立ち上がる。


「っ、あおい! まだ話は」

「わたしから話すことはありません」


 荷物を持ち、部屋の扉へと足を進めた。


「待て葵!」

「待ちません」


 けれどアキラが扉を押さえつけ、葵の行く手を阻んだ。


「なんですか。また月曜日に会えるではないですか」

「俺はまだ、お前に聞きたいことがある」

「『わたし』から聞いたのでしょう? そうなんですよね? ……そうですよ。アキラくんになら『わたし』は話すでしょう。でも、わたしはもう話すつもりはありません。なのでこの手を放してください」

「……さっきから、何わけのわからないことを言っているんだ」

「だから、聞いたのでしょう? それが事実でいいじゃないですか」

「っ、だから。それがまだ不十分だと言って」

「わたしはもう! わたしのことを話したくないと言っているんですっ!」

「――ッ!」


 アキラの腕と奥襟を掴み、思い切りベッドへと投げ飛ばす。


「っ、待て! よくわかるように説明を」

「もう口も聞きたくありません」


 すぐに起き上がった彼を突き放す。


「わたしの半径10メートル以内に入ってこないでください」

「え。俺ちゃんといい子で待ってたのに……」

「生徒会の仕事以外で、わたしに近づかないでください。仕事以外の話は、もうわたしはあなたと話したくありません」

「……本気、なのか」


 沈黙を返すと、彼は泣き出しそうな顔で尋ねた。


「……なんで。いきなりそんなこと……」

「では、この際はっきり言わせてもらいます」


 そんな彼を、葵は真っ直ぐに見据えた。



「わたしだって、言いたくないことの一つや二つあります! こんなにしつこく聞かれて本当に迷惑なんですよ! もう。……っ、もう! わたしには関わらないでくださいっ!」


 葵は扉を開け放ち、アキラの部屋から出て行った。



「――っ! ま、待て! 葵!」


 その背中を、アキラは追うことができなかった。
 悲痛な叫び声に。今にも泣き出しそうな顔に。何と声をかければいいか。わからなかったから。何も、できなかったから。


「……ッ。なんでなんだっ。あおい……っ」


 ぐっと握り拳を作り、ベッドへ叩きつける。
 手の平に血が滲むのも構わないまま、微かに震えながら、アキラは涙を落とした。