すべてはあの花のために⑤


「シランさん。『わたし』と提携を結んでください」

「いいね。“ギブアンドテイク”といこう」


 彼は、葵が申し出た報酬と依頼に、すんなり承諾をくれた。


「それはいつかな。知ってるのは俺と葵ちゃんだけ?」

「はい二人だけにします。報酬を受け取り次第、実行に移してただければ助かります」

「うん了解。……ほんと、ギリギリの精神状態でよく考えたね。君だけは敵にまわしたくないよ」

「わたしも、皆さんの敵にだけはなりたくありませんっ。わたしの敵は、いつだって家でええ……?!」


 完全に仮面を外して笑うと、何故かいきなり彼に抱き締められた。


「……やばい。絶対小桜に怒られる……」


 早々に解放してくれたけど。


「なんか、秋蘭が『似てる』って言ってた理由がわかった気がするよ」

「え?」

「笑った時にすっとやさしく弧を描く目元。瞳の色は違うけど、意志の強さというか。それがよく似てる」


 そんなの、恐れ多いですと。言うとわかっていたのか、「それじゃあ帰ろうか」と。ぽんぽんと頭を撫でられて何も言えなかった。


「あの。もう一度、サクラさんに手を合わせても……?」

「うん。もちろん。俺は大丈夫って言っておいて?」

「ご自分でどうぞ」

「つ、つれないなあ葵ちゃん」

「あはは。すみません素が。しょうがないので、シランさんの分までお伝えしておきますね」


 葵は手を合わせ、静かに目を閉じる。


「(……サクラさん。お話、聞いていらっしゃったでしょうか)」


 お願いできる立場でないことは、重々承知しています。それでも少しだけ、旦那様の手を借りることにしました。
 旦那様を、危険な目に遭わせてしまうかもしれません。もちろんそうはならないよう、精一杯頑張ります。

 旦那様は、大丈夫と仰っていました。ちゃんと伝えましたからね? 今日は、それをきちんと言えてよかった。


 家族が全員揃うその日まで。もう少しだけ、待っていてくださいね。また。わたしも挨拶に伺います。


「(今日は、お話を聞いてくださって、ありがとうございました)」


 そっと目を開けると、ふわりとプリムラの香りが鼻を掠め、冷たい風が葵の頬を撫でていった。