「シランさん。『わたし』と提携を結んでください」
「いいね。“ギブアンドテイク”といこう」
彼は、葵が申し出た報酬と依頼に、すんなり承諾をくれた。
「それはいつかな。知ってるのは俺と葵ちゃんだけ?」
「はい二人だけにします。報酬を受け取り次第、実行に移してただければ助かります」
「うん了解。……ほんと、ギリギリの精神状態でよく考えたね。君だけは敵にまわしたくないよ」
「わたしも、皆さんの敵にだけはなりたくありませんっ。わたしの敵は、いつだって家でええ……?!」
完全に仮面を外して笑うと、何故かいきなり彼に抱き締められた。
「……やばい。絶対小桜に怒られる……」
早々に解放してくれたけど。
「なんか、秋蘭が『似てる』って言ってた理由がわかった気がするよ」
「え?」
「笑った時にすっとやさしく弧を描く目元。瞳の色は違うけど、意志の強さというか。それがよく似てる」
そんなの、恐れ多いですと。言うとわかっていたのか、「それじゃあ帰ろうか」と。ぽんぽんと頭を撫でられて何も言えなかった。
「あの。もう一度、サクラさんに手を合わせても……?」
「うん。もちろん。俺は大丈夫って言っておいて?」
「ご自分でどうぞ」
「つ、つれないなあ葵ちゃん」
「あはは。すみません素が。しょうがないので、シランさんの分までお伝えしておきますね」
葵は手を合わせ、静かに目を閉じる。
「(……サクラさん。お話、聞いていらっしゃったでしょうか)」
お願いできる立場でないことは、重々承知しています。それでも少しだけ、旦那様の手を借りることにしました。
旦那様を、危険な目に遭わせてしまうかもしれません。もちろんそうはならないよう、精一杯頑張ります。
旦那様は、大丈夫と仰っていました。ちゃんと伝えましたからね? 今日は、それをきちんと言えてよかった。
家族が全員揃うその日まで。もう少しだけ、待っていてくださいね。また。わたしも挨拶に伺います。
「(今日は、お話を聞いてくださって、ありがとうございました)」
そっと目を開けると、ふわりとプリムラの香りが鼻を掠め、冷たい風が葵の頬を撫でていった。



