「秋蘭がずっとね、君のことを話してくれていたんだ。すごくいい子なんだって。綺麗で、でも面白い子で、一緒にいると自然と笑えて。……大事にしたい子なんだって。俺にだよ? ずっと君のことを話してた」
「た、確かに『お父様とお話ししてね』とは言いましたけど」
「ずっと、俺は『なんで愛の告白じみたものを聞かされてるんだ』と思ってたよ」
嬉しさにか、彼の目尻に幸せそうな皺が入る。
「俺が覚えていた君は、確かに綺麗な面影はあったけど、面白くなりそうな要素はなかった。どちらかと言えば怖かった。でもさっきちょっと暴走した君を見て、ああこのことかと思ったよ」
「え……?」
「秋蘭の話を聞いて。それから願いのことを聞いて。君の今までの過去を聞いて。そうして俺は、君を信用することにしたんだ。……自信持っていいよ。だって皇の当主を付けるんだからさ」
「……ありがとう。ございます」
彼は、俯いた葵の頭をやさしく撫でてくれた。
「言ってごらん。君が言おうとしていることは、大体予想がついているけどね」
「……シランさん。わたしは。どうやったって家には刃向かえないんです。願いを叶えているなんて知られたら、きっとただじゃおかないでしょう。でもわたしだって、家の言うことを好きでやってるわけではありません。できることなら、Sクラスから落ちてやりたいくらいで」
「それは……」
「でも、それはもう決まったこと。わたしが、この道から逸れることが一番難しいことでしょう」
「……みんなが、自分を知ってしまうのが怖い?」
ぽろぽろと、葵の仮面が剥がれ落ちていく。
「……きっと。わたしを知ったら。みんな幻滅します。それが。今のわたしにとって。一番怖いことで。みんなのことが。大好きで……」
「葵ちゃん……」
「だからわたしは。みんなに『わたし』という人間を知られずに、足掻いてやるつもりです」
「え?」
「いやですよ。もう。こんなこと。みんなには言いません。わたしは。少しでも足掻いて。残りの時間を延ばせるよう。全力を尽くしたい」
「……そっか」
「その延ばした時間で、わたしの全てはバレないよう、誰かに『わたし』を呼んでもらいます」
「俺は、葵ちゃんのことをみんなが知っても幻滅はしないと思うし、離れていったりもしないと思うよ。寧ろ救ってあげたいって、そう思う」
「それは……ダメです。こんな危険なことに、みんなをもう巻き込めません」
「……だから、『俺』なんだね」
――さあ。思いはきちんと届いたはずだ。



