すべてはあの花のために⑤


 飼育員に、水温体験できるところがあると教えてくれたので、葵たちはそこへと足を向ける。


「曇ってる」

「きっと、ここと水の中の温度に差があるんだね」


 そっと葵は水槽に触れてみた。


「ははっ。冷たい」

「なんでちょっと嬉しそうなの?」


 先程までは、どこかボーッとしてたり、ちょっと怯えてるような印象だったが。今は「冷たい」と言いながらも楽しそうな、嬉しそうな葵にカナデが尋ねる。


「お姉さんのお話を聞いて、深海も素敵なところだなって思ったの」

「……俺は最初、アオイちゃんは深海に行きたいのかと思ってた」

「え?」

「たくさん飼育員さんに聞いてたから。だから興味があるのかなって。けど見てたらなんだかつらそうな感じだったから、どっちなのかよくわからなかった」


 みんなも同じようなことを思ったのか、カナデの話に相槌を打っている。


「ちょっと偏見を持ってたの。深海って、真っ暗で冷たくて寂しいところだと思ってて。でもね? 話聞いて、そんなところでも頑張ってるお魚さんたちがいるのを知って、なんか元気出た!」

「アオイちゃんは深海に。暗くて冷たいところに行くの」

「え?」


 葵の手を放すまいと、カナデがぎゅっと握ってくる。どこかつらそうに、悲しそうに。


「……ううん行かない。わたしは行かないよ? 行きたくなんて、ないもの」

「でも、行っちゃいそうな気がするんだ」

「カナデくん大丈夫だよ。どこにも行ったりするもんか。だって……ほら」


 葵は、カナデと繋いでいる手を掲げる。


「カナデくんがちゃんと、手繋いでいてくれるから」

「アオイちゃん……」


 ――心配なら、ちゃんと手繋いでおいて?

 そう意味を込めて、葵はにっこりと笑った。



 そのあとはショップでお土産を買った。


「あっちゃんあっちゃん! これ! お揃いで買わない?」

「ん? どれどれ?」


 それは、珊瑚の恋愛運UPのキーホルダー。


「キサちゃん、あなた十分でしょ」

「いやいや! キクちゃんの気持ちがいつ離れて行っちゃうかわからないからね! 念には念を入れておかないとっ!」


 そう言ってキサは二つ手にとって、「はい! 一個はあっちゃんの!」と渡してくる。


「(あれだけなっがい両片想いしておいて、気持ちが離れることなんてないと思うんだけども)」


 そんなことを思いつつ葵も、なんだか楽しくなってキサに乗っかって買ってみることにした。

 出口でスタンプが押せたり、オリジナルのシールももらえるらしかったので、葵たちは最後にそれをして、係の人に「楽しかったです! ありがとうございましたー!」と、水族館を後にした。