毛先を触っていた指先を、ぐっと握り込む。
「きっと、もうご理解いただけたと思います。アキラくんの誕生日パーティーへ赴いたのが、わたしではなく赤の方だと。シランさんが久し振りに会ったわたしの印象が違ったと思われたのも、それが原因です」
「……もしかして、お二人が葵ちゃんにいろんなことを教えていたのは……」
「赤を抑えるため、というのももちろんあったと思います。最終的には契約のことも二人には話しましたが、わたしの限界を少しずつ広げて、無理をし過ぎないようにしていてくれたいたのだと」
ゆっくり目を瞑る。目蓋の裏側に、大好きだった二人の姿を映し出しながら。
「……もう、その期限が迫ってきています」
「君が消えるってこと?」
「けれどわたしは、ただで消えてやるつもりはありません」
葵は真っ直ぐ、シランを見据えた。
「これ以上お話しすることができず、申し訳ありません」
「十分だよ。……今の道明寺のことは、多少なりとも知っているから」
「……そう、ですよね。やっぱり」
「大丈夫だよ葵ちゃん。誰にも言わない。もちろんさっきの話も。ただ、まだ聞きたいことがあるんだけど、それは契約違反になるのかな」
「……? たとえばどのような?」
「赤は今話したことを君の中で聞いているのか。君を拾ってくれたお二人の名前と、絵本の行方。それから、今言った『ただでは消えない』のその先だ」
怪訝な顔で「……君は、一体何をしようとしている」と言う彼に、葵は小さく笑って答えた。
「まず、赤とはある方法で連絡を取っているので、それをしない限りわたしでいられている間のことを知られることはありません。赤が表へ出ていた時の記憶は、多少覚えていることもあれば、全くもって覚えてないこともあります」
「その、連絡手段って?」
「日記です」
「日記?」
「今日一日あったことを、夜寝る前に必ず書き起こします。それを、わたしが寝静まった頃、夜中に赤が読んで、あったことを把握しています」
「じゃあ工作することもできるんだね」
「少しならできるかもしれませんが」
――赤は確実に、主人格よりも頭が切れる。
「これをしなければ、契約を破る気なのではと、夜中以外でも赤が出てくることがあります。時間が削られたせいで、最近はふとした瞬間普通に出て来ることもあって。……いつみんなにバレてしまうか」
「あおい、ちゃん……」
葵は微かに笑うだけで、悲痛に顔を歪めるシランに続けて答えた。
「旦那さんは瑞香さん、奥さんは緋衣乃さん。……そこまでしか、言えません。言いたく、ありません」
「言いたくない? どうして。もしかしたら君を助けられる手がかりになるかもしれないのに」
「彼らをもう、……これ以上巻き込みたくないからです」
本当なら、今すぐにでも会いに行きたい。
でもそれはもう……きっとできない。



