「……冗談でしょ。そんな馬鹿げた話があるわけ」
本当に。何度そう思ったかわからない。
けれど、実際に何度か体を奪われ、意識を乗っ取られた。まるで、嘘ではないのだと言い聞かせられているみたいだった。
「そう、ですね。はは。わたしもそうだと思いたいです」
こんな話、話したところで誰も信じない。
こんな、まるで童話のような物語なんて。
ただ、苦笑いしかできなかった。
「……このことを、ご存じなのは」
「わたしを拾ってくれたお二人と、道明寺。それから理事長と、シントだけです。……わたしの本名を知っているのは、『わたしたち』だけですが」
「あとは、どこまでかは知りませんけど、少しだけわかった人はいらっしゃるみたいですね」と、葵は続けた。
「……『大人になるまで』っていうと、随分曖昧な表現だけど、二十歳であればまだ三年。十八だとしても、優に半年は猶予があるってことか。確か誕生日は夏だったよね」
言い切るシランに、葵は堪らず顔を顰めた。
「そんな猶予がないことは、あなたもよくご存じのはずです」
「そっちは置いておいて、だよ。君自体のリミットはまだだろう?」
「……それが。そうも言ってはいられなさそうで」
今度はシランが、顔を顰めた。
「先程の話は、わたしが何もしなければの話なのです」
「どういうこと。……君は、何をしたの」
「少々、……無理をし過ぎました」
「無理って? たとえばどんなこと?」
たとえば――……そう。頭で必要以上に考えたり。たとえば、自分の持っている力以上のことを、発揮しようとしたり。
「さらに言うと、赤の気に食わないことをするのも、厳密にはアウトでしょうね」
「ただの好き嫌いの問題じゃない」
「まあそうなんですけど……」
「……それでも葵ちゃんは、していたんだね」
「はい。嫌いなコーヒーを飲んだり、好きな赤をとことん避けて、反対色の緑を選んだり。無駄な抵抗というか、ほぼ八つ当たりですけど」
苦笑を浮かべながら、今はもう短くなった髪の毛先を触る。
「でも一番は、赤が大事にしている髪をばっさり切ったことでしょうか」
「髪を?」
「その時はこうするしかなかったので仕方なく。でもわたしが粗末にしたせいで、強制的に残り時間を奪われました。確実に、わたしがわたしでいられる時間は、短くなっています」



