わたしと母は、帰りが遅くなった父を玄関まで迎えに行きました。おかえりなさいと、母は言います。ただいまと、父は答えます。そして、わたしは父に尋ねました。
『お帰りなさいお父さん。今日もお母さんの友達と会ってたの?』
父も母も、わたしの言葉に目を見開いて驚いていました。
母は、どういうことだと問い質します。父は、子どもが勝手に言ってることだと、そう言いました。でもわたしは、さらに尋ねました。
『プレゼント、喜んでくれた?』
その日は母の友人の誕生日でした。
母は、父を怒りました。父は、母にはそんなわけないだろうと言って宥めていましたが、わたしを見る目は、とても……とても怖かった。
それから、今度は母が家を空けることが多くなりました。
いい子で待っているのよと、母は出かける前にはいつもわたしに言います。煌びやかな服に包まれ、いつもより濃い化粧をした母は、いつも笑顔だったのでわたしも笑顔で見送っていました。
退屈だったわたしは、父の仕事場に入って邪魔にならないように仕事の資料を見たりしました。間違いの箇所は、丁寧に、わかりやすいように付箋をつけて。それも退屈だったわたしは、父が持っていた外国の文字が書かれた本を読み漁りました。
わたしが日本語も、他国語も数式も理解できたのは、まだ二つの時でした。
それから今度は母の方が、父よりも帰りが遅くなる日が増えてきました。
あまりの母の変容と徐々に無くなっているお金に、父が今度は母を問い質します。母は、ちょっと友人に会いに行ってるだけだと言っていました。だから、わたしは笑顔で母に尋ねました。
『今日はすばるくんに会いに行ったの? それともけいいちくん? お酒もおいしかった? 楽しそうでよかった』
この言葉を聞いた父は怒りました。ホストクラブなんかに行っていたのかと。
もう母は否定しませんでしたが、その代わり父にも同じようなことを言い返します。
浮気してたあなたに言われたくないわ――と。
それから家の中はいつも怒鳴り声ばかりでした。



