よくわからないまま、葵たちは水族館の深海エリアへ辿り着く。
「……深海……」
「アオイちゃん?」
エリアに入るや否や、先程まではしゃいでいた葵は消え去っていた。何かを考えているような様子で。
「……あ。あそこにキク先生にそっくりな魚がいる」
「いや、あっちゃん。確かにキクちゃん魚顔っぽいけども」
そんな冗談を言ったかと思えば、どこかボーッとしているような印象で。
「すっごいね。カナデくん。デッカいイカがいる。あれなら何日分になるかな」
「ダイオウイカって確か食べられないんじゃなかったっけ」
「わ。あそこにはデメキンがいる」
「深海から上がってきたせいで、圧が急になくなったから飛び出してるだけだよ」
「あ。あそこに小っちゃい生き物がいる」
「スルーしないでー」
取り敢えずは手は繋いだまま。でもやっぱりどこか様子がおかしいと、カナデもみんなも思っている。
そんな中、葵はふと標本を使いながら説明をしてくれている飼育員に目がとまった。
「アオイちゃん。聞きたいことがあったら答えてくれるらしいよ?」
「……聞きたい、こと……」
聞こえてはいるんだろう。けど、返事はどこか曖昧。
葵は、吸い寄せられるように飼育員のところへ。
「こ、こんにちはっ」
『こんにちはー! 美男美女のカップルさんですねー!』
飼育員さんの言葉に全員がピキッと固まったが、一切眼中になかった様子の葵は、飼育員に尋ね始める。
「あ、あの。このお魚さんたちは、どのくらい深いところから来たんですか?」
『そうですね。魚にも寄りますが、ここにいるみんなは大体水深200m以深から来た子たちですね』
「そ、そこに行くのって、やっぱり大変ですよね?」
『……? そうですね。水圧がすごいので、専用の乗り物に乗って、ゆっくりと行くようになります』
「そこってど、……どんな感じなんでしょうか」
『明るさとか、温度とかですか?』
「はいっ。そんな感じです」
『やっぱり深海となると、真っ暗で冷たい場所ですかね』
「やっぱりそうですよね……」と、どこか落ち込んでしまった様子の葵に、飼育員はにっこり笑う。
『でも、面白い魚たちや生き物がいっぱいいるんですよ』
「お、おもしろい、ですか……?」
『真っ暗の海の中で、ちょっとでも光を受け取ろうとすっごく大きな目に進化したお魚がいたり。あとは……そうですね。深い海の中には、黒っぽかったり、赤かったりするお魚さんがいるんですけど、中には黄色いお魚さんもいたりするんですよ』
「……それって、どうしてなんでしょうか」
『お姉さんは、どうしてだと思いますか?』
「え? えっと……」
考え込んでしまった葵を見て、飼育員は小さく笑った。
『『見つけて欲しい』のかなと』
「――!」
『この、黄色いお魚さんは、寂しがり屋さんだったのかもしれません。だから、真っ暗な海の中でも自分の存在を『見て』『覚えて』欲しかったのかなって。私は思っちゃいました』
「……ははっ! わたしも、お姉さんに一票!」
そのやりとりを見ていたみんなは、首を傾げる人がいたり、どこか暗い顔の人がいたり、興味深そうに聞いている人と様々だった。



