戸惑う葵をじっくり見てから、シランはにっこりと笑っていた顔を正す。
「それじゃあ二つ目。……君が話せるところまででいい。俺と小桜に、改めて自己紹介をしてくれるかな」
葵は苦痛に顔を歪めた。
「償っている身でありながら、こんなことをお願いするのは図々しいと、重々承知しています。けれどどうか。アキラくんには。このことは黙っておいてもらえないでしょうか」
「秋蘭だけでいいのかな」
「……っ。わたしの友達に。生徒会のみんな。トーマさん。キク先生に。何卒。お願い致します」
「約束しよう。それで君の、償いの手助けになるのなら」
はっと顔を上げる。
そこにいたシランは、葵の想像以上にやさしい笑みを浮かべていた。そんな笑顔を向けられる資格もなければ、罵声を浴びせられることも覚悟していたというのに。
「最初から俺は、君に償って欲しいとは思っていないよ」
「で、でもシランさん。確かにおっしゃっていました。『やってくれたな』って」
「『やってくれてありがとう』って意味だよ。だって、君がいなかったらきっと信人は、あの時皇に捕まっていただろう。あいつだけでも逃れられてよかったと、俺はそう思っているよ」
「それは違います! 道明寺は皇よりも酷い! それをあなたは、誰よりもご存じのはずで!」
「それでもあいつが選んだことだ。それとも、あいつはそれを悔いているのかい?」
「そ、れは……っ」
「きっと君に会えたことで、あいつもどこか変わったんじゃないかって思うよ。でなかったら、あいつが選んで葵ちゃんに付いているはずがないよ」
流石は父親だ。息子の考えていることなんてお見通しか。
「さてと。……葵ちゃん。俺も『君のことはよく知らない』から、話を聞いてもいいんじゃないかとは思うんだ」
「……はい。お話しできるとこまで。『わたし』の話をさせていただきます」
「そんなに怖い顔されると、俺も困っちゃうんだけどな」
「すみません。……どうしても、思い出したくなかったものですから」
葵はふうと息を吐いて、自分の出生を話し始めた。
「……わたしは、道明寺の子ではありません」



