すべてはあの花のために⑤


「……っ、は、いっ。わかり。まし……っ」

「え。葵ちゃん、そんなにいやなの……?」

「それはそうだろう。俺とデートしよう葵」

「いや、それもなしだから。ていうかアオイちゃん何やって……」


 葵は椅子から降りて、床に正座していた。


「不束者ではございますがああ……。よろじぐおねがいじまずううぅ……」


 そして、額を地面に擦りつけた。


「ええ! いきなりどうしたの! 頭! 頭上げて!」

「あ、葵。仮面はどうなったんだ……」

「よ、よくわからんが、辛うじてセーフってことなんじゃないか……?」


 今度はみんなして地べたに座り込んで大慌て。


「葵ちゃん、それお嫁に行く時に言うやつだからね」

「そうか。葵は俺のところへ……」

「今のは誰がどう見たってシランだったろうが」


 顔を上げた葵は、さっきのが嘘みたいな顔をしていた。


「すみません。ギリギリの範囲で暴走したつもりです」

「いや、つもりとは何ぞや」

「流石は俺の葵。許容範囲をしっかりわかってる」

「何だよその誰も得しねえ許容範囲」


 気を取り直し、全員が椅子に座り直したところで。


「ではシラン様。わたしはどちらへデートをしに行けばよろしいんでしょうか」

「……きっと、君が今、一番行きたいところだと思うよ」


 勝手に話を進められて、アキラとカエデは首を傾げている。


「ちなみに秋蘭? 俺が葵ちゃんとデートするんだから、付いてきちゃダメだよー」

「なんでだ」

「なんでもー」

「嫌だ。俺は葵のそばから離れないと決めたんだ」

「……お前それ、世間一般ではストーカーって言うんだけど、大丈夫?」

「え。……どうしよ。俺、ストーカーになりたかったんだ」

「アキ! 頼むからそれだけはやめろ!」


 まさかの自分のなりたいものに気づいてしまったアキラは、カエデに肩を掴まれ頭をぐらぐらと揺らされていた。


「……じゃあ、デートが終わったらアキラくんのところへ行きます。それでも、ダメですか?」

「嫌だ。俺も行きたい」

「どんだけアオイちゃん好きなんだお前は」

「それはもう、今すぐ葵を食べたいぐら――」

「それでしたらもう、わたしはアキラくんとは口をききませんし、半径10メートル以内にも入らせませんが、それでもいいんですね」

「わかった。気をつけて行ってこいよ」


 三人は同時に思いました。
 彼の意見を変えることができたのはさて、口をきかない方か、それとも半径10メートルの方かと。



「流石に10メートルだといろいろ難しいからな。……何か、変なことされたら言うんだぞ。俺がすぐ父さんを抹殺しに行くからな」

「その前にわたしがアキラくんを抹殺させていただきますわ?」

「き、きを、つけて……」


 後者の方だったかと、納得していたカエデは、震え上がるアキラを見て思いました。『アオイちゃん、普段よりも攻撃力上がってね?』と。