「信人はちょうどその頃留学していてね。妻と一緒にアメリカへ行っていたから、その時のパーティーはいなかったんだ。……信人と初めて会ったのは、葵ちゃんがあいつを拾ってくれた時かな?」
「……シラン様。わたしは今日、あなたに一言謝りたくてここへ来たんです」
葵は佇まいを直し、背筋を伸ばす。その空気に、アキラやカエデにも緊張が走るが、シランはにこり笑っているだけ。
「謝ってもらうようなことはないと思うけど、一応聞いておこうかな」
「……あなたの大事な息子であるシントを、何の了承もなく今まで隠して、勝手にわたしの執事にしました。……っ、本当に申し訳ありませんでした」
葵はテーブルに額をつける勢いで頭を下げて謝罪する。
「え。あ、葵?」
「アオイちゃん、それは謝ることじゃ……」
戸惑う二人に首を振る。これは絶対に、必ず言おうと思っていたことだから。
「謝って済むようなことではないと、重々わかっています。大事な御子息を道明寺の執事にするなんて。……きっと、命に代えても償いきれません」
テーブルの下で強く、冷たくなった指先を握り込む。
「そうだね。『やってくれたな』と、聞いた時は思ったよ」
「……! 父さん、何言ってるんだ」
「そうだぞシラン。アオイちゃんはシントのためを思って」
「本当にそうかな」
「は? 何言っ」
「本当に信人のためだけを思って、葵ちゃんの執事にしたのかな」
葵は俯いたまま、何も言わない。ううん。言えなかった。
「……アオイ、ちゃん……?」
「もうしわけ。ありません……っ」
「それじゃあ葵ちゃんには、そうしてくれちゃった償いをしてもらおうかな」
「――! 父さん! 一体何をさせる気だ!」
「ちょ、落ち着けってアキ」
ガタンッと、大きな音を立てて席を立ち上がったアキラは、上からカエデに押さえつけられていた。
「俺とデートしよう!」
「「はああ?!」」
次の瞬間には、二人一緒に崩れ落ちたけれど。



