すべてはあの花のために⑤


「本日は旦那様、アキラ様、道明寺様、そして私以外は席を外しておりますので、緊張されなくて大丈夫ですよ」

「ありがとうございます。そう言っていただけで、少し気が楽になりましたわ」


 様子がおかしいことを緊張と捉えて話をしてくれたのだろう。語尾に『わ』を付けたら、下手物でも見たような顔をされたけれど。


「お気遣いはとても嬉しいのですが、わたしはこのまま(、、、、)で。カエデさんも、どうぞお構いなく」

「……畏まりました。それでは、こちらの部屋で御座います」


 きっと伝わっただろう。この話し方を、崩すつもりがないことを。


「ご丁寧にありがとうございます」


 案内されたのは、生徒会室と同等の扉の前。
 カエデはゆっくりと、その扉を開けた。



「……ああ。来たんだな」

「ごめんなさい、少し遅くなってしまいました」

「……大丈夫だ。それは構わない」


 扉を開いてすぐのところで、アキラが待ってくれていた。葵の話し方に慣れないのか、とても居心地悪そうな顔をされたけれど。


「それでは、どうぞ奥へ」


 テーブルの上座には、物腰が柔らかそうな顔立ちの細身な男性が、すでに席に着いていた。


「どうぞ。よくいらしてくれたね、道明寺さん」

「……はい。お元気そうで何よりです。紫蘭(しらん)様」

「――!」


 きっと、アキラの父の名前を知っている葵に驚いたのだろう。それか、家を嫌いだと言っていた葵を思い、父に名字は敢えて伏せていたのかもしれない。もしかしたら、その両方か。


「まあ座って話でもしようじゃないか。な? 秋蘭も、それから楓も」

「……わかった」

「え? いえ旦那様。私は今一応仕事中で」

「今日は一緒に昼食を食べるのが仕事だ。それとも何か? 俺とは一緒に食えないって?」

「いえ食べますすみません」


 うん。確かに、この人に楯突けないわ。