「本日は旦那様、アキラ様、道明寺様、そして私以外は席を外しておりますので、緊張されなくて大丈夫ですよ」
「ありがとうございます。そう言っていただけで、少し気が楽になりましたわ」
様子がおかしいことを緊張と捉えて話をしてくれたのだろう。語尾に『わ』を付けたら、下手物でも見たような顔をされたけれど。
「お気遣いはとても嬉しいのですが、わたしはこのままで。カエデさんも、どうぞお構いなく」
「……畏まりました。それでは、こちらの部屋で御座います」
きっと伝わっただろう。この話し方を、崩すつもりがないことを。
「ご丁寧にありがとうございます」
案内されたのは、生徒会室と同等の扉の前。
カエデはゆっくりと、その扉を開けた。
「……ああ。来たんだな」
「ごめんなさい、少し遅くなってしまいました」
「……大丈夫だ。それは構わない」
扉を開いてすぐのところで、アキラが待ってくれていた。葵の話し方に慣れないのか、とても居心地悪そうな顔をされたけれど。
「それでは、どうぞ奥へ」
テーブルの上座には、物腰が柔らかそうな顔立ちの細身な男性が、すでに席に着いていた。
「どうぞ。よくいらしてくれたね、道明寺さん」
「……はい。お元気そうで何よりです。紫蘭様」
「――!」
きっと、アキラの父の名前を知っている葵に驚いたのだろう。それか、家を嫌いだと言っていた葵を思い、父に名字は敢えて伏せていたのかもしれない。もしかしたら、その両方か。
「まあ座って話でもしようじゃないか。な? 秋蘭も、それから楓も」
「……わかった」
「え? いえ旦那様。私は今一応仕事中で」
「今日は一緒に昼食を食べるのが仕事だ。それとも何か? 俺とは一緒に食えないって?」
「いえ食べますすみません」
うん。確かに、この人に楯突けないわ。



