すべてはあの花のために⑤


「何故。泣かないんですか」

「……泣かないって。決めたんです」

「今にも泣きそうな顔をされているのに?」


 ふっと抱き締められていた力が緩むと、両手に頬が包み込まれる。


「……泣いて。っ。ない……」

「泣いたら、少しだけでも気持ちが楽になるかもしれませんよ」

「だめ。なんです」

「どうして?」

「もう。心配を。かけたくないっ……!」

「私は、泣かないあなたの方が心配です」


 そう言って再び、彼は葵の体を引き寄せる。


「誰も見てません。私も何も知りません。……だから泣いてください。あおいさん。あなたが泣くまで、私はあなたを放しませんよ」

「だめ。です。あなたに。これ以上迷惑は……」

「何も聞きません。それでも、駄目ですか?」

「……巻き込みたく。ないんです」

「……泣かないあなたをこんなにも助けてあげたいと思う私は、あなたにもう、十分巻き込まれていますよ」

「――! ……っ」


 震える葵の体を、力強く抱く。


「…………うぅ……」


 その強さに、やさしさに、少しずつ涙が、声が、溢れてくる。


「私の前では泣いていいんです。……泣かないと、あなたが壊れてしまいますよ」


 レンのやさしい手が、背中を撫でてくれた。


「その方はあなたにとって、とても大切な人なのですね」

「……。っ。……うぅっ……」

「なんでもありません。……どうぞ今は、思う存分泣いてください」


 葵はぐっと服を掴んで、彼にしがみつくように泣いた。
 レンはただ、葵が泣き止むまでずっと、背中を摩ってくれていた。