「時にあおいさん、手品はお嫌いですか?」
「手品、ですか?」
「はい。……ちょっと失礼しますね」
そう言って彼は、葵の顔の横の髪へ、すっと手を差し入れる。指先が耳を掠めてぴくりと震えると、「くすぐったかったですか? すみません」と。謝っていても、なんだかその顔は悪戯が成功した子供のように楽しそう。
「見てください。こんなところから500円玉が」
そう言って今度は反対側の耳の横へ手を差し込んで。
「今度は千円札。あおいさんの髪はお金のなる髪なんですね?」
「……ぷっ」
手品で出しただけだというのに、彼が真面目な顔をして言うから、なんだかおかしくて笑ってしまった。
「どうです? 信じられないことを見た感想は?」
「ふふ。……とっても、楽しいですね?」
「……もう、大丈夫そうですか」
「はい。レンくんのおかげで」
「何があったのかは、教えていただけないんでしょうか」
「……そう、ですね。すみません」
「何かお力になれるかもしれません」
「何言ってるんですか。レンくんのおかげで、もうわたしは十分元気ですよ」
葵はゆっくりと体を起こし、にっこり笑う。
「でも、そうですね。やっぱり少しだけ……」
「教えて?」
「……なんだか、寂しい気持ちになってしまったんです」
繋いでいる手を、ぎゅっと握られる。
「まだそうだと決まったわけではないし、わたしの見間違いかもしれない。勘違いかもしれない。やっぱりわたしは、疑いたくない。わたしは、ただ信じることしかできません。……問い質すことなんて、できません」
「……あおいさん」
「何か、わけがあるのかもしれませんしね? その人の考えまでは、わたしにもわかりません。聞こうとも、思いません。……っ、だって。もしものことがあると。わたし。きっと立ち直れな……っ」
「あおいさん!」
今にも泣き出しそうになったところを、彼に引き寄せられた。
「……っ。本当は。聞きたいに決まってるじゃないですか。『そんなわけない』って。言って欲しいに決まって……っ」
絶対に泣かないと決めた。
だから葵は、目の前の彼の服をぎゅっと握り締めて、必死に堪えた。



