すべてはあの花のために⑤


「時にあおいさん、手品はお嫌いですか?」

「手品、ですか?」

「はい。……ちょっと失礼しますね」


 そう言って彼は、葵の顔の横の髪へ、すっと手を差し入れる。指先が耳を掠めてぴくりと震えると、「くすぐったかったですか? すみません」と。謝っていても、なんだかその顔は悪戯が成功した子供のように楽しそう。


「見てください。こんなところから500円玉が」


 そう言って今度は反対側の耳の横へ手を差し込んで。


「今度は千円札。あおいさんの髪はお金のなる髪なんですね?」

「……ぷっ」


 手品で出しただけだというのに、彼が真面目な顔をして言うから、なんだかおかしくて笑ってしまった。


「どうです? 信じられないことを見た(、、、、、、、、、、、)感想は?」

「ふふ。……とっても、楽しいですね?」

「……もう、大丈夫そうですか」

「はい。レンくんのおかげで」

「何があったのかは、教えていただけないんでしょうか」

「……そう、ですね。すみません」

「何かお力になれるかもしれません」

「何言ってるんですか。レンくんのおかげで、もうわたしは十分元気ですよ」


 葵はゆっくりと体を起こし、にっこり笑う。


「でも、そうですね。やっぱり少しだけ……」

「教えて?」

「……なんだか、寂しい気持ちになってしまったんです」


 繋いでいる手を、ぎゅっと握られる。


「まだそうだと決まったわけではないし、わたしの見間違いかもしれない。勘違いかもしれない。やっぱりわたしは、疑いたくない。わたしは、ただ信じることしかできません。……問い質すことなんて、できません」

「……あおいさん」

「何か、わけがあるのかもしれませんしね? その人の考えまでは、わたしにもわかりません。聞こうとも、思いません。……っ、だって。もしものことがあると。わたし。きっと立ち直れな……っ」

「あおいさん!」


 今にも泣き出しそうになったところを、彼に引き寄せられた。


「……っ。本当は。聞きたいに決まってるじゃないですか。『そんなわけない』って。言って欲しいに決まって……っ」


 絶対に泣かないと決めた。
 だから葵は、目の前の彼の服をぎゅっと握り締めて、必死に堪えた。