すべてはあの花のために⑤


「あなたの言う信じたくないこととは、どこか裏切られてしまったような気持ちになることなのですね」

「……えっと」

「ちょっとでも気が紛れたらと思いまして」


 何も言わなくても察してくれた彼は、そっと葵の手に自分の手を重ねるように触れ、そのままやさしく包み込んでくれる。その手が、とても温かくて心地よかった。


「……あったかい、です」

「それはよかった」


 今度は頭を、ぎこちなく撫でてくれる。


「ふふ。なんか、小さな子どもになった気分です」

「でも、落ち着きません?」

「はい。……すっごく、うれしい」


 葵の笑顔に驚いたのか、一瞬手を止めるが、またすぐに撫でてくれる。


「レンくんの手は、とっても綺麗ですね」

「え?」


 葵は、繋がれていたままの手に力を込めた。


「綺麗で、とってもあったかい。……こうしてもらえるだけで、随分と落ち着きました」

「私の手は、綺麗なんかじゃありませんよ」


 彼の顔に影が差すのを、初めて見た気がする。


「……もしあなたがそう思っていても、わたしはそう思っているからいいんです」

「私は、あなたの方が綺麗で温かいと、そう思いますよ」


 今度は彼が、ぎゅうと繋いでいる手に力を込めた。


「……わたしなんか、綺麗でもないし、温かくもありませんよ」

「それでは、さっきのあなたの言葉を、そっくりそのまま返すことにしましょう」

「え?」

「もしあなたがそう思っていても、私がそう思っているのでいいんです」


 彼の顔にはもう、差し込んだ影はなかった。