すべてはあの花のために⑤


 中の人に気づかれないよう、そっとその空き教室から距離を取るけれど、血の気が下がって吐き気が止まらない。

 それでもふらつきながら最後の回収に向かうと、前から会いに行こうと思っていた人物がやってきた。


「あ。どうみょ……あおいさん。もしかして最後ですか?」

「……れん、くん……」

「あおいさん?! どうしたんですか!」

「……いえ。なんでも、ないんです」

「なんでもないことないでしょう。保健室行きますよ」

「えっ?」


 有無を言わさず、彼は葵の体を浮かせて歩き出す。


「れ、れんくん。歩けますよ……!」

「嘘ばっかり。今にも貧血で倒れてしまいそうな顔をしていらっしゃるんですよ」

「そ。れは……」

「だから今は、私が安心できるように、運ばれていてください」


 顔の近さとやわらかい微笑みに、白旗はすぐに揚がった。


「……お。おねがい。します……」

「はい。もちろん」


 少し顔を赤くして彼の肩口に顔を埋めると、満足そうに彼は笑っていた。



 保健室へ向かうと、養護教諭は葵の顔色を見て酷く驚いていた。すぐに病院へ、行かないなら家に連絡するよう勧められたが、少し横になっていれば大丈夫だからと丁重に断った。
 正常な体温と脈拍、きちんとした受け答えができるのを確認してから、職員会議のため養護教諭は席を外した。もし何かあれば必ず呼び出すようにと、しばらく付いていてくれるというレンに念を押して。


「ちょっとは落ち着きましたか?」

「……少しだけ、なら……」

「貧血持ちですか?」

「いえ。……違うんです」


 レンは、ベッド横に椅子を持ってくる。


「何が原因か、わかってらっしゃる言い方ですね」

「……レンくんは、信じたくないことを、見たことがありますか?」

「えっと。……あなたはそれを見てしまったから、そんな風になってしまわれたと?」


 葵は何も答えなかった。
 どんな顔をすればいいのか。なんて答えたらいいのか。考える余裕すら、今の葵にはなかったから。