中の人に気づかれないよう、そっとその空き教室から距離を取るけれど、血の気が下がって吐き気が止まらない。
それでもふらつきながら最後の回収に向かうと、前から会いに行こうと思っていた人物がやってきた。
「あ。どうみょ……あおいさん。もしかして最後ですか?」
「……れん、くん……」
「あおいさん?! どうしたんですか!」
「……いえ。なんでも、ないんです」
「なんでもないことないでしょう。保健室行きますよ」
「えっ?」
有無を言わさず、彼は葵の体を浮かせて歩き出す。
「れ、れんくん。歩けますよ……!」
「嘘ばっかり。今にも貧血で倒れてしまいそうな顔をしていらっしゃるんですよ」
「そ。れは……」
「だから今は、私が安心できるように、運ばれていてください」
顔の近さとやわらかい微笑みに、白旗はすぐに揚がった。
「……お。おねがい。します……」
「はい。もちろん」
少し顔を赤くして彼の肩口に顔を埋めると、満足そうに彼は笑っていた。
保健室へ向かうと、養護教諭は葵の顔色を見て酷く驚いていた。すぐに病院へ、行かないなら家に連絡するよう勧められたが、少し横になっていれば大丈夫だからと丁重に断った。
正常な体温と脈拍、きちんとした受け答えができるのを確認してから、職員会議のため養護教諭は席を外した。もし何かあれば必ず呼び出すようにと、しばらく付いていてくれるというレンに念を押して。
「ちょっとは落ち着きましたか?」
「……少しだけ、なら……」
「貧血持ちですか?」
「いえ。……違うんです」
レンは、ベッド横に椅子を持ってくる。
「何が原因か、わかってらっしゃる言い方ですね」
「……レンくんは、信じたくないことを、見たことがありますか?」
「えっと。……あなたはそれを見てしまったから、そんな風になってしまわれたと?」
葵は何も答えなかった。
どんな顔をすればいいのか。なんて答えたらいいのか。考える余裕すら、今の葵にはなかったから。



