すべてはあの花のために⑤


 その頃葵たちは、シントが止めていた車に乗り込み、道明寺へと向かっていた。


「……っ。お嬢様。沖縄は、楽しゅうございましたか……?」

「……ええ。とても有意義な時間を過ごすことができました」


 まだ執事でないといけないということは、【盗聴】されてるか。或いは【監視】されている。それなら葵も、崩すことができない。
 シントといて、こんな息苦しいことなどなかった。生温い空気が纏わり付いて、気分が悪い。


 信号に引っかかると、シントが大急ぎでサイレントモードにしたスマホへ何かを打ち始める。


「……それはようございました。もしよろしければ、どんな時間をお過ごしになったのか私にも教えていただけますか」

┌                  ┐
 見られてはない
 俺に盗聴器が付けられてるだけ
 だから、違う話をしながら
 俺がここに来た理由を伝えるよ
└                  ┘


 シントから届いたメッセージ。
 葵も声のトーンに気をつけながら、スマホに文字を打つ。


「もちろん大丈夫よ。……そうね。着いてすぐは大きな水族館に行ったわ」

┌                  ┐
 わかった

 取り敢えずシントは
 誰の命令でここへ?
└                  ┘

「……そうなのですね。さぞ綺麗なところだったのでしょう。沖縄の海を再現しているそうですからね。こちらでは見られないような魚がいたのではないですか」

┌                  ┐
 旦那様だ

 理由は……あー……いっぱいある☆
└                  ┘


 一旦車を走らせ、また信号で引っかかってシントがそう教えてくれる。
 てっきり、突っ込みどころ満載のメッセージだから余裕があるのかと思ったけれど、シントの表情はそのおちゃらけた文章に反して、悔しそうに歪んでいた。


「……ええ。可愛らしいお魚さんがたくさんいたわ? イルカもウミガメもマナティーも、とても愛らしかったの」

┌                  ┐
 お父様……アザミ様からの命令なのね

 取り敢えず一つずつ
 順を追って説明してくれる?
└                  ┘