すべてはあの花のために⑤


 ぐっとツバサの腰を曲げ、彼の頭を抱えて抱き締める。


「――聞きなさいツバサくん」


 葵の言葉は怒気が含まれていた。だけど、それでもどこかあたたかい。


「今まで君がしてきたことは、その時できた君の最善策。それを否定したらダメだ。その時の自分が消えるぞ。今のツバサくんが消える」

「……っ」

「ツバサくん。その時の最善策のまま、君は最後まで行くの? 今まで助けられなかったのに、それで本当に救える?」

「……わ。かってる……っ」

「うん。今のツバサくんなら、きっとできるよ」

「……ん」


 ツバサは、縋り付くように葵を抱き締めた。


「今まで頑張ってきたことを糧に、少しずつ方法を変えなさい。君にならできる。大丈夫だ。大丈夫」

「……っ、うんっ」

「一気に変えなくていいんだ。女性でいることをやめろなんて言わないよ。君が考えて考えて、少しずつでも助けてあげられるようにしていったらいいんだ」


 ツバサの頭を解放して、にっこりと笑う。


「ここまで必死に努力してきて、めちゃくちゃ美人になったんだ! ツバサくんならできる!」

「まあ元がいいから、しょうがないわよね~」

「立ち直り早っ」

「だってアタシだし~?」


「ははっ。そうだった」と、二人して笑い合った。