前は……って。
あんた私の何を知ってるんだよ、とか思わなかったわけじゃない。
でもそんなことより、問題なのは……
その声が、和泉夕緋の淡白なその声が、
思ったよりも近くで聞こえてきたことだ。
『……っ!!』
焦ってビビって、勢いで顔を上げそうになったけどそれをグッとこらえる。
な、んで?!
え、近くない?!!
私の記憶が確かなら、私と和泉夕緋の間には少し距離があったはずだ。
ふと、
俯いたままの私の視界の中に、見慣れないスニーカーが入り込んできた。
あ、それ某スポーツブランドの限定もののスニーカーだ。
なんて、現実逃避をしてみたりして。
……さっきからずっと、和泉夕緋の行動や言動にいちいち(心のなかで)突っ込んだり驚いたりしてるせいか、何て言うか…もう思考回路はショート寸前で、すごく焦ってるはずなのにどこか冷静な自分がいる。…いや、もしかしたらもうとっくにショートしてるのかもしれない。
「まぁいいや。別に興味ないし」
………。
そうだ。
ショートしてる場合じゃなかったわ。
やっぱり近くで聞こえる…というか明らかに近い距離から放たれるその声に、思わず肩がびくりと小さく上がった。
興味ないならはやくどっか行け!!
私はこれ以上ボロを出すわけにはいかないの!!!!!
「でも」
下手なことを言わないようにと、口を真一文字に結んでる私に、和泉夕緋は言葉を続けた。
「前よりは面白い」
