転生したら不良と恋する恋愛小説の悪女でした。


俺を見つめるその瞳は、もうかつてのように熱を帯びてなんかない。



感情が読めないライトブラウンは、無機質なビー玉のようにも見え———

…ただ、酷く冷めていた。




わけがわからない。



こんな目を俺に向けてくる女なんて今までいただろうか。




……いや、いるはずがない。




こいつは本当に俺に興味を無くしたのか?

それにしても急すぎやしないか?





と、思考を巡らせているときだった。





『あの、本当にぶつかってしまい申し訳ありませんでした。…では』



お手本のような笑顔を浮かべ、その瞳と同じように温度のない声で言葉を放つ。



それから、天宮は足早に俺の横を通りすぎようとしていた。



何を考えているのか、その表情や態度からは全く読めやしない。







「天宮李和」




キツそうな印象をうけるその見た目とは裏腹に、どこか柔らかい彼女の名を呼ぶ。

すると、…天宮はぴたりと俺の横で止まった。





「お前、何か企んでるんじゃないだろうな」





彼女に一瞥もくれることなく、抑揚のない声を落とす。




なぜ、お前は変わった。

なぜ、お前はそんな目で俺を見るようになった。



なぜ、



なぜ。





ーーーーその時、頭に浮かんだのは美世の笑顔だった。




俺が、何としても護りたいその笑顔。



それを曇らせるようなことは、したくない。



そんなことがあってはいけない。




俺達に近寄ってくる女にとって、美世ほど煩わしい存在はないだろう。

美世に近づき友達のふりをして俺達に媚を売ろうとしたり、それが叶わなければ平気で美世を傷つける。

…美世以外の女なんか、信用ならねぇ。






だからもし

 

お前が、





美世におかしなことをしたら、傷つけるようなことをしたら、俺は絶対にお前を許さない。




口に出すことはなかったが、俺の言わんとすることがわかったのだろう。

天宮がピクリと動いたのが、何となくわかった。




それに何を言うでもなく、俺は足を一歩踏み出した。



振り返ることもなく、前へ進む。