「藍ちゃん妄想してるとこ悪いけど」
「してない」
「あそ?まーいーんだけどさー?」
「何だよ愁聖。何が言いたい」
フフンと何かを思い付いたように底意地の悪い笑みを浮かべる愁聖に少しイラつき、ギロッと睨んでみるもあいつは笑みを一層濃くするだけで…腹が立つ。
……本当に何なんだ。
「誉はさ、天宮ちゃんのこと押してだめなら引いてみろ作戦つったでしょ?」
「え、うん」
愁聖はやはり裏のある笑みを携えたまま、誉をちらりと見やる。
「でも俺はどっちかっていうと、女心と秋の空だと思うんだけど」
「「「は?」」」
あいつの言いたいことがこの場にいる誰一人わからず、三人とも首を傾げた。
そんな俺らを気にするでもなく、「つまり、」とマイペースに言葉を続ける。
「俺が思うに天宮ちゃんはもう藍ちゃんのことが好きじゃないってこーと」
にぃっと、嗤う。
不思議の国のアリスに出てくるチェシャ猫を連想させるような、その軽薄そうな表情。
「…なぜそう思う」
トントンと一定のリズムでソファーの肘掛けを指で叩きながら、そうさせた原因である愁聖に問う。
「誉の言う通り、押してダメなら~って作戦だったとしたら、その行動を取ることによって藍ちゃんがどう思うのかどんな表情をするのか気になるもんだよ。でも」
「でも?」
「あの子、すれ違ったとき全く藍ちゃんのこと見てなかったんだよね。なんなら気づいてすらいなかったみたいだよ?今までのあの子ならどう?藍ちゃんか俺ら見かけたらすぐ声かけてきてたのに、おかしくない?」
「だから、そういう作戦じゃ、」
「ないと思うなー。そもそもそういう作戦するタイプじゃないでしょー。あの子は直球タイプだよ。だーかーら、わかりやすく毎日媚び売ってきてたでしょ?」
「……」
「女心と秋の空。女の子の心は秋の空のように移り変わっていくものですよってこと。多分もう藍ちゃんに前のように接してくることはない気がするなー俺は」
「まぁでも、よかったんじゃない?俺以外うざがってたし。美世もビビってたし、俺は楽しかったけどさ?あっちから来なくなったなら結果オーライじゃん」
ペラペラと饒舌に喋る愁聖は、そこまで言ってやっと止まった。
愁聖の話を要約すれば、もうあの女は俺への興味は全くなく、今後近づいてもこないだろう、とのことだ。
