彼の格好いい兄ちゃん像が悉く瓦解しているのはさておき。気を取り直して、シントは葵からもらった他の言伝をみんなに話せるだけ話した。
まず、葵から届いたメールの内容。
・今家を出ていること
・家には『生徒会の方の友人の家に泊まる』と言っていること
・詳しくは置き手紙を見ること
「中身は見せられない。秘密事項だから」
と、如何にも真剣な顔で言っているシントが秘密にしたいのは、ただのメイド写真なのだが。
それから、一輪挿しの下。そしてその横に、先程見せた置き手紙が置いてあったこと。
「一枚目の方は俺の仕事内容について書いてあるから、これ自体は見せられないんだけど。仕事をさぼらないようにという念押しと、この花のプリザーブドフラワーを作ること。それまでは他の仕事をするなと書いてある」
「そしてもう一枚の方が、さっき見せた修行という名の【家出するので捜さないでください】っていう手紙ね」と。如何にも優秀な執事感を醸し出しているが、口頭説明で済ませたのは、ただメイド写真の存在がバレるのを防ぎたいだけである。
「だからしんとサンは、それを作り終わらない限り他の仕事……つまり『あおいチャンを捜すこと』ができないと、そういうことですね?」
「その通りだよ茜くん。……君は変わったね」
髪を切り、そして眼鏡を外した。
確かに変わった。けれど見た目のことを言っているわけでないことは、シントのやさしく細められた目元で十分わかる。
何故敢えて今変わったことを言ったのかはわからなかったが、彼が変われたことはみんなにとってもとても喜ばしいことだった。
「お、おれのことはいいんです。でも、あ。ありがとう。……ございます」
みんなのやさしい視線が自分に集まって、アカネは恥ずかしそうに頬を赤らめながら顔を隠していた。
「だから信人さんは、自分が動けないからアタシたちを呼んだと、そういうことですか?」
「うん。そうだよ(……まあそれは、今回に限った話ではないけれど)」
そんなアカネの後を引き継いで、ツバサがここに呼んだ意図を問う。シントの言葉の裏を読もうと一生懸命ツバサは見つめ続けるが、にこりと笑って上手く逃げられてしまった。
「友達の家に泊まるって。確かあっちゃんには……」
「君たちぐらいしか関わりはないから、誰かに連絡があったかなと思ったけど。……やっぱり家出か」
「シン兄が何かしたんだろう」
「ええ?! そ、そんなことはしてないと思うけど!? だって俺、結局のところ眠らされて。縛られて……」
うんぬんかんぬんと、ぶつぶつぼやき始めるシントは、今にも泣き出しそうだった。アキラはまた兄の傷口を抉ってしまったと反省し彼の背中を摩っていたが、他のみんなは疑いの目を向けていた。



