「机の上に置き手紙が二枚あったんだ。一枚は、葵に頼まれた仕事が終わるまで、この部屋から出てはいけないこと」
本当は、他のことするなと言っただけで、ここから出るなとは言われていないのだが、それはさて置いといて。
シントは、立て替えてくれていたアキラにお金を支払い、届いた荷物を開ける。
「これにはね、【お家で簡単✿プリザーブドフラワー✿作成キット】が入ってるんだ」
『プリザーブドフラワー』という言葉を初めて聞いたのか、半分ぐらいは首を傾げていたけれど。
「……あの花が大切だから、ちょっとでも長持ちさせたいんだってさ」
少しだけ寂しそうに、一輪挿しの白い薔薇をシントは見つめていた。
後夜祭の控え室で、新聞紙に包まれていた花の存在を知っていたキサは、何とも言えない表情でシントの横顔を見つめていた。
「それを作るのが、今の俺の最優先。葵がいいよって言うまで他の仕事ができなくってさ、ほんとありがたいよね~」
「いや最後おかしいですから」
堪らずヒナタが突っ込んだ。
「でも問題は二通目。ごめんね? ついついぐしゃぐしゃにしちゃったんだけど……」
一通目の内容を話し終えたシントは、二通目の手紙を取り出し、机の上に広げて見せた。
┌ ┐
精神統一と新必殺技を編み出しに
修行へ出てきます
あおい
└ ┘
「……何。精神統一って」
「何。新必殺技って……」
「何修行って」
カナデ、ツバサ、ヒナタはがくっと項垂れる。
他のみんなは、何も言わなかったが顔が完全に引き攣っていた。
「信人さん。あっちゃんはこれしか言ってこなかったんですか?」
「えっ!?」
シントは大きく飛び上がった。
まさか、もう例の写真が出回ってしまったのかと。
けれど、どうしたのかと思って首を傾げているみんなに、そういうことではなかったと安堵したシントは、思わず涙を流した。それを見て余計にみんなは思案顔になるけれど。
「えっと。こ、これは、俺の口からは詳しくは言えないけど。は、話せるところまでねっ? 話すからねっ?」
「(これも葵に近づくことなのか)わかったシン兄。話せるところまでで構わない」
「アキ……! お前はなんていい子なんだっ!」
「あとは俺が葵に近づいて聞くことに――」
「それだけはやめてお願いだから。これは葵とかじゃなくって俺の問題だから。葵から聞くな絶対! 頼むからあっ……!」
シントは懇願しながらアキラの膝の上で泣いた。
アキラはぎょっとしたものの、「し、シン兄が泣くぐらい嫌なら」と、葵からも聞くのは止めた。



