すべてはあの花のために④


「机の上に置き手紙が二枚あったんだ。一枚は、葵に頼まれた仕事が終わるまで、この部屋から出てはいけないこと」


 本当は、他のことするなと言っただけで、ここから出るなとは言われていないのだが、それはさて置いといて。

 シントは、立て替えてくれていたアキラにお金を支払い、届いた荷物を開ける。


「これにはね、【お家で簡単✿プリザーブドフラワー✿作成キット】が入ってるんだ」


『プリザーブドフラワー』という言葉を初めて聞いたのか、半分ぐらいは首を傾げていたけれど。


「……あの花が大切だから、ちょっとでも長持ちさせたいんだってさ」


 少しだけ寂しそうに、一輪挿しの白い薔薇をシントは見つめていた。
 後夜祭の控え室で、新聞紙に包まれていた花の存在を知っていたキサは、何とも言えない表情でシントの横顔を見つめていた。


「それを作るのが、今の俺の最優先。葵がいいよって言うまで他の仕事ができなくってさ、ほんとありがたいよね~」

「いや最後おかしいですから」


 堪らずヒナタが突っ込んだ。


「でも問題は二通目。ごめんね? ついついぐしゃぐしゃにしちゃったんだけど……」


 一通目の内容を話し終えたシントは、二通目の手紙を取り出し、机の上に広げて見せた。



┌                  ┐

  精神統一と新必殺技を編み出しに
      修行へ出てきます

               あおい

└                  ┘



「……何。精神統一って」
「何。新必殺技って……」
「何修行って」


 カナデ、ツバサ、ヒナタはがくっと項垂れる。
 他のみんなは、何も言わなかったが顔が完全に引き攣っていた。


「信人さん。あっちゃんはこれしか言ってこなかったんですか?」

「えっ!?」


 シントは大きく飛び上がった。
 まさか、もう例の写真が出回ってしまったのかと。

 けれど、どうしたのかと思って首を傾げているみんなに、そういうことではなかったと安堵したシントは、思わず涙を流した。それを見て余計にみんなは思案顔になるけれど。


「えっと。こ、これは、俺の口からは詳しくは言えないけど。は、話せるところまでねっ? 話すからねっ?」

「(これも葵に近づくことなのか)わかったシン兄。話せるところまでで構わない」

「アキ……! お前はなんていい子なんだっ!」

「あとは俺が葵に近づいて聞くことに――」

「それだけはやめてお願いだから。これは葵とかじゃなくって俺の問題だから。葵から聞くな絶対! 頼むからあっ……!」


 シントは懇願しながらアキラの膝の上で泣いた。
 アキラはぎょっとしたものの、「し、シン兄が泣くぐらい嫌なら」と、葵からも聞くのは止めた。