そして、まさかのそのまま寝落ちました。
只今の時刻は17時半過ぎ。シントは葵の腰に腕を回して、小さく寝息を立てながら可愛い寝顔で爆睡中。
葵はというと、また増えたキスマークに、大きなため息を落としておりました。
肩口だから、よっぽどのことがない限り誰にも見えないでしょう。その辺りはきちんとわかっている執事のようです。加えて今回は、上書きと言って同じところにしてこなかったので、空気が読めるなと思っておりました。
「(ていうかシント。絶対気付いてたでしょ。いつも化粧して行かないのに、前化粧道具とか出てたもん)」
そしてふつふつと湧き上がってくる文句という文句。
「(まあ確かに黙ってて悪かったけどさ? 流石にこれは人に言えるようなことじゃないでしょう。同性ならまだしも異性に! しかもわたしを好きだって言ってる人にだよ? こうなるってわかるじゃん!)」
かく言う葵は、あの後ことごとく攻めに攻めたシントとは違いお目々ぱっちり。
何故葵よりもシントの方が爆睡をばっちり決めてしまっているのかというと、実はボディークリームに眠り薬を仕込んでいたのです。(※口にしても大丈夫なクリームです。しかも少量で超即効性抜群)
ついでに言うとこれは賭けだったのですが、胸のキスマークにはコーンシーラーを塗っていませんでした。シントのことだから、それを見つけたら自分も付けようと奮闘するのではないかと、思った結果。
「(まさかここまで攻められるとは、……思ってなかったよね。うん)」
再びため息を吐いた葵は、そっとシントの腕から逃れ、そのままベッドから下りる。すると、後ろからきゅっと服を掴まれた。
起こしてしまったかなと振り返ると、どうやら無意識みたい。本人はむにゃむにゃ寝言を言っていた。
そんな可愛いシントに、そっと布団を掛けてやる。
「……ごめんねシント。たくさんたくさん。ありがとう」
彼の耳元でそっと囁いた葵は、数日分の服や化粧品諸々、それからハイビスカスを鞄へ詰め込んだ。そして服を着替えた葵は、あるところへ一通連絡を入れておく。
それから、一輪挿しを窓際から机の上へ移動させ、その下にメモを挟む。最後にストールを首に巻き、必要な荷物を持って部屋を出た。
噎せ返るほどの花の匂いをさせた庭を抜け、門を出た葵は、振り返って屋敷を見上げる。
そして深く一礼をして、道明寺を去って行ったのだった。



