すべてはあの花のために④


「でもさ。これは何。俺聞いてないんだけど」

「ちょっ! な。なに触ってるのっ!」


 急に離れたシントが、つんつんと胸の上を突いた。


「じゃあ舐める」

「ひゃ……っ?!」


 問答無用で舐められたのは、赤い花だったところ。


「何これ。聞いてないけど」

「……こ、これは。その……」

「はーい。俺キレちゃった。何また勝手に印付けられてるわけ?」

「えーっと……」


 無言を貫いていると、目の前からは大きなため息が落ちた。


「取り敢えず、大丈夫だったの? 前みたいに襲われた?」

「……えっと。悪い人じゃ、なかった」

「悪い人じゃないからって、こんなの勝手に付けていいわけないでしょ! 杜真くんだってそれは一緒だよ?! 何なの葵! 嫌がらなかったの?!」

「…………」

「え。マジで?」

「…………」

「どういうこと」

「……………………」

「なんで無言なんだあー!!」

「――?!」


 結局のところそれ以上は何も言わなかったのだが、シントに襲われてまた一つ、葵の肩口に赤い花が咲いたのだった。