すべてはあの花のために④


 シントの雰囲気が一気に変わり、葵は思わず身構えた。


「し、しんと……っ」


 熱っぽい彼の金色の瞳が、葵を見下ろしてくる。それだけで、甘い空気が漂った。


「ちょお……っ?! さ、触るのを許した覚えはないっ!」


 パジャマの中に手を入れてくるシントに必死の抵抗を試みる。けれど、口ではシントの方が上だ。


「そう。じゃあ、手じゃなかったらいいよね」

「へっ?!」

「唇以外なら、キスしてもいいって言ったもんね」

「あっ、あの。それは。確かに、言った……かもしれない。けど」


 パジャマのボタンを黙々と外したシントは、そのまま葵の胸元へと顔を埋める。


「……! あっ。や、だ……っ」


 やわらかくて熱い唇が触れてくる。
 くすぐったくて、恥ずかしくて、シントの胸を下から押し返す。


「だーめ。じっとしてて」


 力の入らない葵の両腕は呆気なく押さえられて、再びシントの唇が胸元に戻ってくる。音が出る度に、彼の唇が触れる度に、葵の体は小さく跳ねた。


「……俺、すっごい嬉しいんだよ」

「んんっ……?」


 胸元から上へ、首元へと上がってきた唇が、耳朶に触れる。


「葵が変わってくれた。……ただ、それが嬉しい」


 今度は顔へやって来て、額やこめかみ、目元や鼻、顎に触れる。


「葵が変われたのなら、俺も頑張る。絶対にお前を、こんなことから解放してやる」

「……うん。ありがとう」

「ついでにっ、お前の気持ちももらう気満々だから! 他の奴なんか考えられないくらい俺でいっぱいにしてやる! ……それくらい、俺はお前が好きだよ」

「――! ……っ。うんっ」


 シントの笑顔があまりにも眩しくて。思わず涙ぐむ……ところだったのだが。