その後、軽装バージョンへ着替え直したシントに、未だターバン状態のままだった髪を乾かしてもらいながらしばしの休憩。
「人に頭触られるのって、なんで気持ちがいいんだろうねえ……」
船を漕ぎそうになる葵を見て、クスリと笑う。
「今日は頭以外も触って気持ちよくするつもりだけど?」
「それは遠慮するわ。それこそ作品から追い出すだけじゃ済まないから抹殺対象だよ」
「お、おじょうさまっ? 熱くないですか? 大丈夫ですか?」
「うむ。大丈夫だ」
「……ねえ。絶対に俺とくっつくルートなくない? こんなに俺頑張ってるのに。モエモエとかやったのに! 体めっちゃ張ってるのにッ!」
と、何か文句を言っているシントの声が遠い。
「……葵? 眠い? そろそろ寝る?」
「ん。……ん~ん。まだ昨日分ができてないから。もうちょっと頑張る……」
「……そっか。わかった。だったら眠気覚ましにコーヒー淹れるから、ちょっと待ってて」
乾かし終わったシントは、葵の頭にキスを落としたあと、コーヒーの準備に向かう。その背中を、葵は睨み付けていた。
「(っ、あんにゃろう。絶対眠り薬か何か入れたなあ……!)」
次に来るコーヒーにも絶対に入っていると思った葵は、今の間に眠気覚ましを飲んで、さっさと終わらせようと作業に取り組む。
「(……アキラくん。傷ついてないかな……)」
不安に苛まれ、悪い方向へと流れようとする思考を払拭するように頭を振る。
「(強くなる。もっともっと。みんなに心配掛けないように。自分が、みんなが、本当に幸せになれるように)」
葵は首元にそっと触れて、再び作業に集中する。
途中でコーヒーを持ってきてくれたシントに「目が覚めたから大丈夫!」と伝えると、「そうですか」と返ってきた笑顔にはやっぱり悔しさが滲み出ていた。



