すべてはあの花のために④


 バババババーッと体を拭き、頭をタオルでターバンのように巻いたあと、ボディークリームをこれでもかというほどたっぷり塗って、まだ少しだけ目立つ赤い花をコーンシーラーでしっかり隠してから、葵は自室へと戻っていった。


「お帰りなさいませご主人さま! きゃっ!」

「――?!」


 すると、何故かメイドさんがポーズを決めて待っていらっしゃいました。


「ご主人さま? 湯加減はいかがでございましたか?」

「え? とっても気持ちよかったですけど……ちょっと入浴剤は入れすぎかなと思いましたが」


 一体この目の前にいる美少女は誰だ?
 この、どこかで見たことがあるような金色の瞳をしたメイドさんは――。


「あーだよね。俺も入れ過ぎちゃったとは思ったんだけどー」

「ええええ?! シントなの!? あなたは一体何をやってるの?!」


 執事服を脱いでまさかのメイド服!
 とても可愛らしくてイイと思います! 眼福ありがとう!


「でも……何だろ。この負けた感じは」

「何言ってるの。葵が一番美人で可愛いに決まってるでしょ」


 その顔と恰好で言われても、嬉しくも何ともありませんけどね?
 誰が見てもその言葉は、今のあなたにこそ相応しいですから!


「シントがオカマと化した」

「やめて。ツバサくんとキャラ被るから」


 それもそうだと即納得。


「ねえ。わたしは今、もしかして夢でも見ているのかな?」

「いいえ? 違いますわご主人さまっ」


 にしても、彼はどうしてこうもやる気満々なのだろう。


「ご主人さまのために、愛情込めてリクエストのランチをご用意したんですう~」


 そう言う彼は、ぺらぺらと葵の前で紙を揺らしていた。