シントはぎゅーっと葵を抱き締める。
「俺もずっと、そいつみたいに心配してた。そいつなんかよりもずっと」
「シント……」
「葵が近くにいないと、いやだ。できることならずっと、お前と一緒にいたい」
「……心配掛けちゃったね。ごめんね?」
今度は葵が、宥めるように彼の背中に腕を回してやさしく撫でた。
「ちょっとだけ一緒に寝ようよ。シントも疲れちゃったでしょ? 慣れてない運転してまで迎えに来てくれたし」
「俺はへーき」
「……じゃあ、わたしと一緒に寝てくれる? ちょっとだけ。一時間経ったら起こして?」
「……それ、俺寝られる?」
文句を言いたげな彼に、思わず笑みがこぼれた。
「それじゃあ一時間後に目覚ましかけとこう。だから……このまま、一緒に寝てくれる? そうしたら安心してくれる?」
「……はい。喜んで。お嬢様」
微笑み合った葵たちは、そのままソファーで一時間寝ることにした。
――――――…………
――――……
一時間経つ直前。目覚まし時計が鳴る前に、細い腕がアラームを止める。
「(よかった。シントぐっすり眠ってる)」
よっぽど疲れさせて……いいや、心配を掛けてしまったから、彼も葵同様、ずっとまともに寝られてなかったのだろう。
結局一睡もしないままそっとシントの腕から逃れた葵は、続けて作業に取り掛かった。
今の時刻は11時前。きっと昼前には流石のシントも起きるだろうから、今度は気分転換に食事でも摂ることにしよう。
「(今日のお昼ご飯は何にしてもらおうかな?)」
昼まで作業をした葵は、眠っているシントに昼食のリクエストを書いたメモを残し、バスルームへと向かう。
「……あんまり目立たなくなってきた」
元に戻りかけている自分の首に、そっと触れる。
元々彼は、本当に軽く印を付けただけだ。やわらかく、やさしく。まるでスタンプでも押すかのように。濃く付かない代わりに、たくさんの花を。
ちゃぷんと、湯船に浸かる自分の体を抱き締める。どれだけ入浴剤を入れたのか、真っ白過ぎて自分の体が全く見えない。
「……もう、時間がない。でもっ。絶対諦めません!」
勢いよく立ち上がるとお湯が大きく揺れ、湯船からザバッとこぼれた。
「わたしも、つよくなります。決めつけないって、決めたんだから……!」



