「あっぶなー……。変態ってことがバレたら、この作品がここで終わるところだった」
額の汗を拭うような仕草をした葵は、未だ座り込んだまま微動だにしない彼へ視線を合わせる。
「ヒエンさん。昨日オウリくんね、病室に帰ってきたら一生懸命声を出そうとしていたんですよ」
強くなろうとした。きっと、ずっと自分の母親も支えているあなたを見て、強いあなたを見て、自分も強くなりたいと思ったはず。……このままでは、駄目だと。
「もう一度言いますヒエンさん。……何があったのか、話してはいただけないでしょうか」
彼にそっと手を伸ばす。
せっかくだから、にっこり笑顔も付けましょう。
「……お嬢ちゃんは、どうして知って」
「ねえ。グジグジするのも大概にしてくださいよ」
急に切り替わった般若顔に、ヒエンは背筋が寒くなった。
「わたし、あなただけは違うと思っていました。なのに……なんですか。この作品に出てくる男たちは、やっぱり漏れなくナヨナヨしてるんですか! まあどうやらオウリくんの方が強いみたいですし、あなたの元に置いておくのは少々腹が立つので、わたしが引き取っちゃいたいと思ってますが。どうしますか? ええ?」
話している最中に、彼は笑い出していた。
「失礼ですね。わたしは本気ですよ」
「いやいや、すまんすまん。……本当に、強いお嬢さんだと思っただけだ」
彼は地面を叩きながら笑っていた。それを見て、葵は実写版ド○キー○ングだなと思った。



