「いかないで」
振り解こうと思えば振り解ける。
そのくらい、弱々しくて、寂しそう。
「……うん。わかった。どうする? わたしは何をしたらいいかな」
「ちょっとだけ、ここにいて」
そんなことならお安いご用だと、シントが座っているソファーに、ぴたりとくっついて座る。
「次は?」
「……さわっていい?」
不安げに。でも返事を待たないまま葵の手に触れ、指を絡ませて、もう片方の手で頬に触れる。
「いいとことダメなとこがあるからね? それは守って?」
「ん」
頬に触れていた手が腰に回る。首に、甘えるように顔が寄せられる。
「……どうしたのシント。お風呂で何を落としてきたの?」
「俺の欲望の塊落としてきた……」
「そ、そんなになるまで落としたの?」
「じゃないと葵、今頃俺に食われてるよ」
「それはダメだな。落としてきてくれてありがとう」
「いいえー」
そう言ったすぐそばから、服の下に手が這ってくる。
「……っ、落としてないじゃん。全然」
「復活した。葵のせいで」
「いやいや勝手に復活しないでよ」
「というのは冗談で。……本当は、安心したかったんだ」
すると彼は葵を抱き締めて、そのままごろんと横になる。
「だって昨日何の連絡もなかったし」
「うん。ごめんね」
「文化祭が終わった日から、葵の顔まともに見られてないし」
「うん」
「カナデくんの家に泊まったとか言われたら心配するじゃん。彼の家ヤ○ザだし」
「ははっ。楽しかったけどね?」
「それでも男ばっかり。焦るに決まってるじゃん。しかも泊まりとか」
「キサちゃんいたけど」
「朝早くにアキから電話が来たかと思えば、帰ってきてもまたすぐにいなくなるって言うじゃん? そこでまた病院泊まるとか言われてさ、しかもメールで」
「悪かったってそれは」
「帰ってきても俺との会話もなく学校行って、また泊まるとか言われてさ。……心配するに決まってるでしょ!」
シントはただ、怒っていた。無理をし続ける葵を思って。
「何日帰ってこなかったと思ってるの! しかも連絡が次の日の3時ってどういうこと! 俺それまで寝ずにいい子して待ってたのにッ!」
「そ、それはすまなかった」
「絶対に昨日は寝ちゃいけなかったって、葵もわかってたのになんで寝たの。誰。葵のこと無理矢理寝させたのはっ!」
「……わたしがね、心配掛けちゃったんだ」
「……心配って?」
「震えが、止まらなかったの。怖くて。理由を聞かれて、言えなかった。……嘘、つきたくなくて」
目の前のシントのパジャマを、ぎゅっと掴む。シントはただ、やさしく頭を撫でてくれた。
「帰ってやることできてないから、この三日そんなに寝られてないんでしょ? 怖かったね。よしよし」
「でも、今日はその分寝るよ。シントもいてくれるし、安心だから」
「俺も安心できた。今、やっと」
「ん?」



